サマーズ氏: 利上げをやり抜かなければ酷いスタグフレーションに

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでジェフリー・ガンドラック氏と真逆のことを言っている。

もしかしたらどちらも正しいのかもしれないが、2人の議論を較べてみたい。

サマーズ氏 vs ガンドラック氏

先週末、Fed(連邦準備制度)はFOMC会合を行ない、0.75%の利上げを決定したが、上の記事でガンドラック氏は珍しくパウエル氏の対応を褒めていた。

ガンドラック氏は利上げが十分になされたとし、それ以上の急激な利上げは深い景気後退を呼ぶとして、その後の急速な利上げを保証しなかったパウエル氏を称賛した。

一方でサマーズ氏の評価はどうだろうか? 彼は次のように言っている。

はっきり言えば、パウエル氏の言ったことは論理的に擁護不可能だ。

珍しくもサマーズ氏とガンドラック氏の意見が真っ向から対立している。サマーズ氏がそのように言う理由は2つあるが、まずは失業率と労働市場に関することである。

彼は次のように述べている。

イエレン財務長官は昨日、失業率が5%を超えることなくインフレから脱出できると見通しを発表した。経済学者としての彼女を非常に尊敬しているが、その発言にはかなり驚いた。失業率が4.1%に留まりインフレは落ち着くというFedの見通しほど驚いたわけではないが。

データを見る限り、どちらの見解も理にかなった予想だと考えるための根拠を見つけることが出来ない。

これはサマーズ氏が繰り返し言っていることである。現在の失業率のチャートを持ってこよう。6月の失業率は3.6%だった。

コロナ以後、失業率は下がり続けており、それはつまり労働者がどんどん雇われていることを示す。

賃金は上がっており、それがサマーズ氏が一番重視するインフレ指標である。賃金はあらゆる産業において生産コストになるからである。

逆に言えば、人々がむしろ解雇され、賃金が下がらなければインフレは下がらない。しかしそれは失業率の上昇と消費の減速を招くだろう。これがサマーズ氏の懸念している点である。

サマーズ氏は、失業率が大して上がってもいないのにインフレが収まるはずがないと考えている。

中立金利

サマーズ氏が懸念するもう1つの点は中立金利である。そしてこの点においてサマーズ氏とガンドラック氏は完全に対立している。

パウエル議長は2.5%の政策金利を、経済を過熱も冷却もしない中立水準だと表明した。そしてガンドラック氏はその意見に賛意を示した。

だがサマーズ氏の意見はどうだろうか? 彼は次のように言っている。

彼は記者会見で2回、2.5%を中立金利だと言った。中立金利の水準がインフレ率の水準によって決まるということは初歩的なことだ。

最新のインフレ率が9.1%だということは何度も報じられている。このように過熱している経済に対し、2.5%が中立金利に近いということさえ考えられない。それが中立だと思うなら、金融政策の作用を根本的に勘違いしているのだ。

サマーズ氏によれば、ガンドラック氏は金融政策の作用を根本的に勘違いしているらしい。

サマーズ氏は更に、パウエル議長が2018年に言ったことを持ち出して中央銀行を批判する。

2018年にパウエル氏は同じ水準を中立金利だと呼んだが、その時のインフレ率は1.9%だった。インフレ率が今のような状態になっているにもかかわらず、どうして彼が当時と同じことを言えるのかわたしには意味不明だ。

そして最後にサマーズ氏は次のように言ってパウエル氏の経済見通しを切り捨てる。

これは彼がインフレを「一時的」と呼び、経済を物価高騰へと突き落とした時と同じ種類の希望的観測だ。

Fedが引き締め政策を力強くやり遂げなければ、経済成長が落ち込みインフレは居座り続けるスタグフレーションに陥るだろう。

どちらが正しいのか?

読者はこの真っ向から対立するサマーズ氏とガンドラック氏の意見をどう思うだろうか?

サマーズ氏の言うように、9%のインフレ率は2%や3%の金利で収まらないという議論には説得力がある。以下の記事では過去の事例を引いて検証している。

しかし一方で、コロナ後の弱ったアメリカ経済にはそれだけの金利上昇でも十分に強烈であり、実際に金属や農作物などのコモディティ市場は減速を始めている。

この意見対立をどう見るか? 筆者はどちらにもある程度の妥当性があると考えたい。

つまり、サマーズ氏は経済学者の立場から、ガンドラック氏は市場参加者の立場からインフレを見ているのである。

金融市場で小麦や銅などの価格が下がるならば、時間差で様々な原材料の価格は安くなってゆくだろう。これはほとんどただの事実である。

一方で、金利の絶対水準に影響される住宅バブルや、サマーズ氏が重視するような賃金バブルは、現在の金利水準では止まらないのではないか。

だから両者ともに恐らく正しいのである。インフレはこれからピークに向けて動いてゆくが、原料価格など金融市場寄りの要素は今後数ヶ月でピークとなり、住宅価格や賃金などのピークは来年になる可能性もあるのではないか。

結論

前にも言ったように、インフレのピークは株安のピークとなるだろう。これはコロナ株安のピークが第1波のピークと同じだったことと同じである。

だからインフレの予測は投資家にとって非常に重要なのだが、サマーズ氏とガンドラック氏という物価の専門家の間でも意見が分かれるほど、今の状況は難しいと言える。

だが基本的に今後数ヶ月はインフレだと思って良いのだろう。それを踏まえて投資家がどうするかである。筆者としてはやはり、ドラッケンミラー氏の相場観を念頭に置いている。