サマーズ氏: 利上げが行き過ぎるとはインフレ率が2%より下がるということ、その確率は非常に低い

Fed(連邦準備制度)が利上げの終着点に向かって議論を始めている中、強力な利上げの継続を長らく推奨してきたアメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでアメリカの金利水準について語っている。

ターミナルレート

サマーズ氏は去年からいち早くインフレの脅威を警告し、今年に入ってからも一貫して強力な利上げの継続を訴えてきた論客である。

ファンドマネージャーなどの実務家ではない学者や官僚の世界ではインフレを唯一正しく予想した人物であり、しかも実務家を考慮に入れても恐らくこれまでの状況を一番正確に予想してきたのがサマーズ氏だろう。

そのサマーズ氏は、利上げの天井が見えてきた現状をどう見ているか。彼は次のように述べている。

市場は金利が5%程度になると考えている。状況を考えると、個人的には金利が低すぎるリスクは、高すぎるリスクよりも大きいだろう。

だが明らかにこのサイクルにおける大きな利上げは終わっており、利上げプロセスは終わりに向かっている。

金利先物市場では金利は最終的に5.25%から5.5%程度になると予想されている。ここ最近株式市場は楽観している一方で、利上げの終着点であるターミナルレートはむしろじわじわと上がってきていることに注目したい。

今後のインフレ率

金利はその後ある程度維持されると考えられている。Fedの対応が遅すぎると長らく批判してきたサマーズ氏も、この金利動向には満足しているようだ。

彼は次のように述べている。

Fedがこれから利上げをいくらか継続し、そこで立ち止まって状況を見、インフレデータとインフレ予想を見比べながら来年の春にかけて確認してゆくと言っているのは正しい姿勢だ。

アメリカのインフレ率は現在7%台である。原油価格の下落などから、この数字は今後次第に下がってゆくと考えられている。原油価格は次のように推移している。

だがインフレ率は何処まで落ちるのかということが議論の的となっており、専門家の間でも意見が割れている。

特にインフレ率や金利水準を考えることを専門としている債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏やスコット・マイナード氏らは、利上げが行き過ぎで、インフレ率は比較的早く落ちてくると考えている。

利上げが行き過ぎる可能性

だがサマーズ氏は利上げが行き過ぎる可能性は低いと考えているようだ。彼は次のように論じている。

利上げが行き過ぎるリスクは、利上げ終了が早すぎてインフレを退治できず、インフレが下がった後に再加速を招くリスクよりも少ないと考えている。

何故ならば、利上げが行き過ぎるというのは、インフレ率が2%より下まで落ちてしまうという意味だからだ。今のインフレ率を考えると、それはあまりに遠いリスクだろう。

(※11/21誤りを修正しました)

現在、インフレ率はようやく8%台から7%台まで落ちてきたところである。2%まではまだあまりに遠い。だが恐らくはサマーズ氏と実務家では「行き過ぎ」の定義が違うのではないか。

マイナード氏はよく「Fedは何かが壊れるまで利上げする」という表現を使っていた。彼らの「行き過ぎ」は市場や経済で何か事故のようなものが起こることである。

だが仮に事故が起こったとして、その時にインフレ率がまだ高止まりしていたらどうするのか。サマーズ氏の論点はそこである。何かが壊れるかもしれないが、インフレを無視すると1970年代のような悲惨な状況になる。

筆者の予想は、恐らく来年何かが壊れ、しかもインフレ率は2%には戻っていないというものである。筆者の予想は年始から一貫してスタグフレーションである。

結論

専門家の金利に関する意見が分かれてきた。今やFedを概ね支持するサマーズ氏は意外にもその中間に位置する。クレディ・スイスのゾルタン・ポジャール氏も今のサマーズ氏に近いだろうか。彼は8月の時点で「5%か6%」という数字を予想していた天才である。

利上げを緩めるよう提案するガンドラック氏とマイナード氏はその下にいる。そしてその上にいるのは金利はまだまだ上がると主張しているレイ・ダリオ氏だろう。

実際の彼らのポートフォリオでも意見の相違は表れている。

株価にとっても一番重要なのは、ドルの天井が果たしてここなのかということだろう。