ジム・ロジャーズ氏: 景気後退でコモディティは調整へ

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタム・ファンドを立ち上げたことで有名なジム・ロジャーズ氏がmoneycontrolのインタビューで金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティ市場について語っている。

ロジャーズ氏とコモディティ市場

ロジャーズ氏と言えば、長らくコモディティに強気なことで知られる。

世界中のあらゆる金融市場をトレードするロジャーズ氏だが、コモディティは特に彼の得意分野で、著書『商品の時代』は情報こそ古いが、金属や農作物をトレードする上でどういうデータを考えれば良いかというコモディティ投資の基本を教えてくれる名著である。

ロジャーズ氏は長らく株式や債券はバブルだと言い続け、割安放置されているコモディティ市場を推奨してきた。だが今回彼は珍しくコモディティを買うことを推奨していない。

世界的な銀行危機

何故か。先ずはロジャーズ氏の現在の相場観から紹介したい。金融市場ではシリコンバレー銀行の破綻やクレディスイスの救済など銀行危機が話題となっているが、この状況をロジャーズ氏はどう見ているか。彼はこう語っている。

歴史的には、こういう出来事が1回で終わったりはしない。1度始まると同じことが起こる。

これまでの金融危機ではいつも経済的に小さい場所や誰も思いもよらなかった場所から始まる。だが数ヶ月後、本当に深刻な問題が生じる。

この危機はまだ終わっていない。

筆者や他の投資家と同じ予想である。

これは予想というよりはただの事実である。ロジャーズ氏は次のように続ける。

リーマンショックを覚えているだろうか。2007年には小さな銀行に問題が生じた。そして次はリーマンブラザーズだった。そしてようやくすべての人々が問題を認識する。

危機はいつもこのように推移する。最初は小さな問題から始まる。数ヶ月後には問題の深刻さを誰もが理解する。

以下の記事でこれ以上なく説明したように、シリコンバレー銀行の破綻は高金利がアメリカ経済を蝕んでいることの証拠である。

だから高金利が続く限り同じことが起き続ける。当たり前の話である。

少しでも経済について知っている人間なら誰もが同じ結論になる。中央銀行はどうか? 中央銀行はきっと経済を少しでも知っているから、まともな結論にたどり着いているだろう。Fed(連邦準備制度)は前回の会合でこう言っていた。

アメリカの銀行システムは健全で強靭だ。

彼らは決して期待を裏切らない。

債券投資家のスコット・マイナード氏は次のように言っていた。

エビデンスに基づけば、Fedの予想は常に間違っている。

弱気相場で何処に賭けるか

さて、これからリーマンショックのような事態に発展してゆくならば、投資家はどうすれば良いのか? コモディティは逃げ場になるだろうか。インタビューではロジャーズ氏ならコモディティを推すだろうとの予想からそう聞かれている。だが今回ロジャーズ氏は意外な答えを返している。

わたしは別にいつもコモディティに強気だというわけではない。

コモディティ市場は確かに過去200年や300年の間、何度も大相場を演じてきた。今もコモディティ市場は強気相場に入っているのだとは思う。

だが、わたしはコモディティをいくらか保有しているものの非常に強気だというわけではない。コモディティ市場は調整に入っていると考えている。

強気相場の中の調整期間だということらしい。景気後退になれば、経済の中の需要は減少する。コモディティ価格は需要と供給で動くので、それはコモディティにとって悪材料になる。

だがロジャーズ氏はこう続ける。

しかしコモディティがもっと下落すれば、調整が終わるまでにもっとシルバーを買いたいと思う。農作物を買えるだけ賢明でありたいと思う。

どうやら筆者と同じ戦略らしい。

コモディティの短期・長期見通し

ロジャーズ氏が短期だけでもコモディティに弱気だなんて雨でも降るのだろうか。

それは言い過ぎだが、それだけインフレ後の経済危機が迫ってきたということだ。

だが一方で、ロジャーズ氏はコモディティの長期強気相場を強調する。その理由の1つは、ロジャーズ氏は人間の紙幣印刷への依存を確信しているからである。彼は次のように述べている。

日本人を見てみるといい。日銀総裁の毎日の仕事は出社して紙幣を印刷するだけだ。

真面目な話、日銀総裁はもう何年もほとんど何もしていない。それで年収は3,500万円である。輪転機を回すことはそれほど難しいのだろうか。多分彼の頭では難しいのだろう。

ロジャーズ氏は次のように続ける。

日銀総裁は無限に紙幣をすると言った。無限にだ。無限に紙幣を印刷すれば当然インフレが酷くなる。

そしてロジャーズ氏は以前、経済が危機に陥るとアメリカが緩和に逆戻りすることを予想していた。そういう未来も織り込んでの紙幣印刷予想なのだろう。インフレは当然ながらコモディティ価格を暴騰させる。

電気自動車とコモディティ

また、実需の面からもコモディティの長期的な見通しは明るい。ロジャーズ氏は次のように述べている。

これから電気自動車が使われることになる。電気自動車はガソリン車の何倍もの鉛や銅や亜鉛やリチウムを使う。

だから需要も上昇するだろう。

景気後退懸念が大きくなってきたにもかかわらず、銅価格が持ちこたえているのはそのためだろう。銅価格は次のように推移している。

銅は電気を伝えるために使われる。電気自動車と言えばバッテリーに使われるリチウムもそうである。

電気への移行はグリーンなリベラルの人々によれば環境のためにやっているらしいが、アフリカなどではこうした鉱物需要のために山が掘られまくっている。それらの自然破壊は、電気自動車がなければ行われなかったはずのものである。彼らにとってそちらの自然破壊は良いのだろうか。

水力発電も同じである。彼らは海岸の村を水面上昇で沈めないようにするために山奥の村をダムに沈めている。この戦略は高熱を避けるために高熱を出すコロナワクチンに似ている。

何故彼らはこうした自然破壊は気にしないのか。リベラリズムの本質とは、自分にとって興味のあるもの以外の価値を理解できないことである。彼らにとって二酸化炭素や難民やクジラ以外はどうでもいい。それが彼らの本質である。

それは彼らが多様性を強調するところに表れている。考え方の多様性を理解できない人間だけが肌の色の多様性にしがみつく。彼らはいつになったら自分自身を理解するだろうか。

金融危機とコモディティ市場

しかしそれでも電気自動車への移行は行われる。トヨタが抵抗しているが、西洋文明が本当の意味で衰退するまでそれはゴリ押しされるだろう。

ではこれらのコモディティはこれから起こる景気後退を持ちこたえられるのか。

筆者の予想は否である。筆者の予想では、金融危機が本当に大きくなった時、誰もが悲観的になり、こうした長期の需要を無視してあらゆるコモディティが大きく下落する瞬間が来る。

それは例えばコロナ初期にカール・アイカーン氏が原油をマイナスの価格で買ったような瞬間である。

ロジャーズ氏はこう述べている。

これから景気後退が来ることになる。だから需要には問題が生じる。

市場が崩壊するとき、ゴールドやシルバーでさえもしばらく下落することになる。

だがその後ゴールドやシルバーは上昇に転じる。これらは通常一番最初に上昇に転じる銘柄だ。今回もそうなるだろう。

ここの読者はそう思っただろうが、筆者とまったく同じ見方である。そしてゴールドやシルバー以外のコモディティについては、もう既にそうなっているが、なかなかに酷い弱気相場になるだろう。

コモディティ市場を予想するには短期的な需要と供給、長期的な需要を供給を考えることである。ロジャーズ氏は『商品の時代』で繰り返していた言葉を繰り返している。

思い出してほしい。コモディティ価格は需要と供給だ。インフレとは需要と供給だ。


商品の時代