ジム・ロジャーズ氏: 2016年世界同時株安はリーマン・ショックがいまだ続いていることを示している

著名投資家のジム・ロジャーズ氏がMidasLetterのインタビュー(原文英語)で2016年年始からの世界同時株安について話しているので、以下に要旨を翻訳したい。特に世界同時株安の原因が2008年以降の新しいものではなく、より長期の経済サイクルの影響によるものであると指摘している部分は重要である。

ロジャーズ氏は、年始からの市場急落は2008年の金融危機がまだ続いていることを示すものかと問われ、以下のように答えた。

その通りだ。個人的にはそれを疑ったことはない。量的緩和と低金利の時代にあって、中国経済はずっと世界経済を支えてきたが、中国経済に見られる減速の兆候はそれが終わりつつあることを示している。

現在の状況が2008年の金融危機の続きであるという考え方は、ラリー・サマーズ氏のいわゆる長期停滞論である。サマーズ氏や彼に同意するグループは、ここ10年ほどの経済の動きだけを見るのではなく、50年から100年単位の長期バブルの終わりが来ていると認識することが重要だとしている。これについては以下の記事で少しだけ触れた。

また、ロジャーズ氏は中国について以下のように述べた。

人々は中国のことを責めるが、中国もわれわれと同じ被害者だ。アメリカの国民も含め、われわれは皆被害者なのだ。われわれの中央銀行があまりに酷いのだから。

世界同時株安の原因が主に金融政策であり、中国の景気減速は市場にとってはおまけだという意見にはわたしも同意するが、しかし中国はGDPを粉飾しているという点では積極的な加害者である。他の国の事業者はそれを信じて供給能力を拡大してきた。その嘘が剥がれ落ちてきたことで、銅や鉄鉱石などのコモディティ市場の暴落を引き起こしたのである。

ロジャーズ氏はシンガポール在住で娘にも中国語を学ばせている親中派であり、個人的に中国を擁護したいのだろうが、そういった感情は投資には鬼門である。事実、彼は中国株で損を出している。

話を世界経済に戻そう。これから市場の混乱はどうなってゆくのか? ロジャーズ氏は債券市場に注目している。

債券市場の強気相場が終わりかけている。次のようなことが起こるだろう。市場はますます困難に直面し、指数は下落し続ける。13%か17%か、具体的な数字は何でもいいが、Fed(連邦準備制度)はパニックに陥るだろう。彼らはただの学者と官僚で、あまり頭が良くない。だからパニックに陥って、利下げを始めたり量的緩和を再開したりするだろう。手段は何でもいいが、債券市場を救済しようとする。

債券市場は再び上昇を開始するかもしれないが、恐らくそれが最後となる。そうして債券市場の弱気相場が再開する。35年か36年ぶりに、われわれは酷い付けを払うことになる。次に金融危機が起こる時、それは2008年よりも大幅に悪い状況になるだろう。当時よりも負債があまりに多く積み上がっているからだ。

主要国の中央銀行が量的緩和を行った後で金融危機が起こればどうなってしまうのか? もう手段は使い果たしたというのに、これ以上世界経済に何ができるのか? これは市場の先行きに悲観的な者すべてが懸念する事項である。

ところで、35年か36年ぶりとはどういうことか? これは記事の初めで述べた長期サイクルのことである。量的緩和バブルの記事でも引用したが、ロジャーズ氏は米国の政策金利を見ているのである。

2015-11-us-federal-funds-rate-historical-chart

政策金利は70年ほどかけて、ゼロから頂点に、そして頂点からゼロに行って帰ってきた。そのグラフの頂点が35年ほど前、米国でレーガノミクスが始まった時期なのである。ちなみにその頃の経済状況についてはその7年後に起こったブラックマンデーについて解説した記事で詳しく説明している。

因みに注目すべきは、ロジャーズ氏が株式市場よりも債券市場に着目しているという点である。中央銀行が株式市場と債券市場のどちらかしか救えないとき、中央銀行は債券市場を救うことを選ぶだろう。債券の金利は実体経済により直接的な影響を持つからである。

したがって、株安と同時に国債が上がっている現状では、Fedは市場を救おうとせず、手段を温存したがるかもしれない。しかし債券市場が危なくなれば中銀はなりふり構わず救済に動くだろう。

1月のFOMC会合でFedがどれだけ世界同時株安に配慮をするかは未知数である。個人的には少なくとも多くの投資家の予想以上にはタカ派で来るのではないかと予感しているが、情報の少ない状況で推測するよりは会合の結果を素直に待とう。それまでに市場の状況が変わっている可能性もある。

このインタビューには金や原油に関するコメントもあり、こちらの翻訳も別の記事で行おうと思っている。世界同時株安に関するわたしの見解は以下の記事を参照してほしい。