米国利上げによる金価格の短期的下落をヘッジする方法一覧

前回の記事で予告しておいた、金相場の短期的な下落リスクをヘッジする方法の一覧である。前回の記事を読んでいることが前提であるので、先ずはそちらに目を通してほしい。

また、今回の記事ではオプションを多用しているので、オプションの知識のない読者には以下の記事をお勧めしたい。

米国株のプット・オプションを買う

さて、先ずは警戒すべきリスクをそのままヘッジする方法から紹介しよう。

前回の記事によれば、警戒すべきはアメリカ経済をリセッションに陥らせ、株式市場を暴落させる水準まで利上げが進むことであるから、このリスクをヘッジするためには株式市場が暴落した場合に利益の出るポジションを取ればよい。

米国株の空売りではなくプットを買う方法をお勧めする理由は、上記とは逆のシナリオ、つまり米国が利上げをせずに金融緩和に転じる場合、金価格も上昇するが米国株にもプラスになるからである。その時に米国株を空売りしていたのでは、金価格の上昇による利益が空売りの損失で帳消しになってしまう可能性がある。だから損失を回避できるオプションの買いにするのである。

米国株のボラティリティが収まっているお陰で、かなりの廉価でオプションを買うことが出来る。プットの買いを仕込むとすれば、今のように投資家がリスクオフを忘れている瞬間以外には無いだろう。

米国株のショートについては、年始に空売りを宣言していたジョージ・ソロス氏と、米国株に必ずしも弱気ではないと述べていたレイ・ダリオ氏の議論が参考になるだろう。以下の記事に纏めてある。

金の買いをプット・オプションの売りに変更する

次は金の買いそのものを別のポジションに変えてしまう方法である。先物やETFなどで保有していた金を、プット・オプションの売りに変更する。

プット・オプションの売りとは、一定の水準よりも価格が下がらなければ利益の得られる取引である。例えば、現段階で金のプットをアット・ザ・マネー(現価格と行使価格が同じ)で売れば、金価格が現在の水準より下がらない場合、およそ10%程度の利益が得られる。

この10%の利益は金価格が下がった場合にもその分の損失とは別に支払われるので、プットの売りとは10%以上の利益を諦める代わりに将来の10%の利益を確定させる取引であると言える。物価が上昇し続けている間はプットを売り続け、その後に金の買いにポジションを戻せば、利上げ懸念によって金価格が停滞する場合にも一定の利益を上げることが出来るだろう。一方で金価格が短期的に急騰する場合、その利益の一部を諦めることになる。これは一種の利益確定である。

追加で金のプット・オプションを買う

あるいは、価格の下落を懸念するのであればプットの買いがもっともストレートな手段である。プットの買いとは価格が一定の水準を下回った場合に利益の出る取引である。つまりは一定の保険料を支払うことで、一定水準を下回った場合の損失をプットの買い手に肩代わりしてもらうということである。

例えば、2015年12月の底値を下回った場合の損失を回避するための保険料は、現在のオプション市場で1年間分で1.5%程度となっている。幸い、わたしと同じ時期に金を購入した投資家は20%以上の利益が出ているはずであるから、その中から1.5%を支払って損失の可能性を回避するのは悪い取引ではない。これもある種の利益確定である。

また、オプションを理解している読者には周知の通りだろうが、上記のような現物の買いとプットの買いという組み合わせは、ディープ・イン・ザ・マネー(行使価格が現在価格を大幅に下回る)のコールの買いと理論的に等価である。本稿では説明のためプットを買う前提で説明した。

金の買いをコールの買いと米国株のプットの買いの組み合わせに変更する

次は金価格の上昇と米国株の下落のどちらか片方が必ず起きるという前提で行うクロスポジションである。

コールの買いは価格が上昇すれば利益を得られ、損失は限られる取引、プットの買いは下落方向の同じ取引である。

今後の金融市場の動きが、米国が利上げを強行して米国株が崩壊するか、利上げを断念して金価格が高騰してゆくかのどちらかであるならば、その両方をオプションの買いでカバーしておけば、少なくとも一方はオプションの保険料を補って余りある利益を出してくれるだろうということである。

この方法は戦略としてはなかなか悪くないのだが、唯一の問題点は金のオプションの保険料が高くつくことである。例えば、一番保険料が高くなるアット・ザ・マネー(行使価格と現在価格が同じ)の場合、1年間の保険料は10%近くなる。これでは高過ぎるので、行使価格をある程度ずらして買いを入れる他にない。

一方で米国株のボラティリティはかなり低水準まで下がっているので、こちらのオプションを買うのは特に問題がないだろう。上記に書いた通りである。

利益確定する

最後に説明する手段はシンプルに利益確定である。2015年12月に金の買い入れを開始した時、市場の利上げ織り込みは3度か4度であり、かなり無理のあるタカ派的な織り込みであった。それはわたしが金の買い入れを決定した理由であった。

しかしながら、現在金利先物市場は高騰するインフレにもかかわらず、年内の利上げを織り込んでいない。また、金価格そのものも当時の水準から20%以上上がっている。この二つの時期を比較するならば、当時の方が金投資の魅力が大きいのは確実である。

これまで金に関する利益確定をしていない場合、金のポジションは価格の上昇によって当時のサイズからより大きいものになっているはずであり、ポートフォリオ構成の理屈で言えば、当時の方が資産として魅力が大きいにもかかわらず、現在のほうが大きなポジションになっているのは理屈に合わない。

だから一部を利益確定するのも一つの手であるだろう。しかしその場合、金価格が上昇した場合の利益は当然逃がすことになる。すべては当然ながらトレードオフなのである。

結論

以上の方法はどれも、わたしが雇用統計を眺めてから週末の2日間で真剣に検討したヘッジの手段である。

個人的には金の買いポジションには極力触れず、米国株のプットの買いを逐次仕込んでゆく方法を主な手段として用いたいと思っている。わたしは結局のところ長期投資家なのであり、前回の記事で指摘したようなかなりの急落においても持ちこたえられるように、買い付けは出来る限りの底値で行っている。安く買うことの重要性にここでまた助けられることになる。

また、ヘッジ手段としてだけではなく、米国株のプットはそろそろ仕込んでゆくのに最適なタイミングになってきたと思う。

個人的には金のコールと米国株のプットの組み合わせにかなり惹かれているのだが、上記の通り問題は金のオプション価格である。また、金投資の一部をプットの売りに置き換える方法も、ヘッジとして極一部併用してゆきたいと思っている。

しかしながら、どれが最適なヘッジの手段であるかは金価格と米国株の水準や、イエレン議長の動向によって常に変わってくるものであり、今後は状況を見ながら上記の手段を組み合わせて対処する必要がある。

ここでも金価格の動向については常にフォローしてゆくつもりだが、わたしの日々の細かなポジションの変化まですべてここに書いてゆくことは出来ないので、金投資をしている読者はこの記事と前回の記事を読みながら、相場環境と考えられる手段をしっかり把握し、それぞれ最適なポジションを作り上げていってほしい。ここが金の投資家にとって最後の山場である。