スイスフランが1日で30%急騰、欧州相場で何かが起こる前触れか

これには驚いた。1月15日、スイス国立銀行(スイスの中央銀行)が対ユーロの上限レートを撤廃したことにより、スイスフランはユーロに対して一時30%上昇した。EUR/CHFのチャートはここで見ることができるが、1日であまりに動いたためチャートの体をなしていない。要するにスイス国立銀行が自国の通貨安介入に失敗したため、スイスフランが急上昇したということなのだが、これまでの経緯も含めて下記に説明してゆく。これはユーロや欧州株、ひいては世界の金融市場にとって重要な意味をもつ出来事である。

ユーロ安に対抗しようとしたスイス国立銀行

ヨーロッパの中央部に位置し、優れた時計メーカー、観光業を持つスイスは、ユーロに対してスイスフランが上昇しすぎた場合、観光や輸出に悪影響が及ぶため、とりわけユーロ圏経済が危機に陥って以来、ユーロ買い・スイスフラン売り介入を行ってきた。今回撤廃されたユーロに対するスイスフランの上限120は、ユーロ危機のさなか2011年9月に設定された無制限介入ラインである。

ECB(欧州中央銀行)が量的緩和も視野に入れた金融緩和を行いつつあり、多くの投資家や中央銀行がユーロを売る中、スイス国立銀行はその勢いとは反対にユーロを買わなければならない立場に置かれてきた。上限設定以降、EUR/CHFは1.20-1.26のレンジを上下し、ほとんど上限(ユーロの下限)の120に張り付いた動きを見せていたが、2014年11月から1.201-1.204から動かなくなるなどレンジが更に狭まり、12月18日にユーロ買い介入の動きが見られるも、その後はまた元のレンジに戻って取引されていた。

スイス中銀の不敗神話の終わり

異変は確かに確認されていた。12月末の外貨準備は11月の4626億スイスフランから急増し、4951億スイスフランと発表された。しかし、ロイターによれば、スイス国立銀行のダンティーヌ副総裁は1月12日に「1ヶ月弱前にあらゆる角度から状況を再評価したが、スイスフランの上限は今後も金融政策の基礎であるべきと確信している」と述べており、上限撤廃を示唆する発言は中銀内部からは出ていなかった。ユーロ危機後、長らく上限を守りぬいたスイス国立銀行が今後も上限を維持するとみて、ポジションを取っていた投資家も多かっただろう。そして上記発言の3日後、スイス国立銀行は対ユーロの上限撤廃を発表したのである。

スイスフラン上限撤廃が意味するもの

そしてスイスフランはユーロに対し一時30%も上昇した。現在は1ユーロ1フラン程度でやや安定しているようである。問題は、何故このタイミングで数年以上続けていた上限を撤廃しなければならなかったのかということである。

上限の再設定ではなく撤廃としたのは、更なる再設定を見込んだ投機的資金にスイスフランの買いを仕掛けられないようにするためと考えれば納得ができる。しかし、この時期に唐突に上限を撤廃しなければならなかったのは何故なのか?

ロイターによれば、ジョルダン中銀総裁は差し障りの無いコメントしか出していない。「このような政策を終了するときには市場の意表をつく必要がある。市場はこのようなサプライズに直面すると過剰反応する傾向にあるが、現在の為替レートではスイスフランはかなり過大評価されており、より持続的な水準まで再び下落するはずだ」そうであるが、このようなコメントからは何も読み取ることができない。彼も意図してそう発言したのである。

いくらかの市場関係者は、ECBが更なる金融緩和(恐らくは量的緩和)を行う前触れであると見ている。わたしもそう思う。大規模な金融緩和によりユーロの価値が損なわれれば、為替介入ではコストが大きいと見て、金融政策を合わせる方向に転換したのだろう。上限撤廃に合わせて、中銀預金金利を-0.25から-0.75へ利下げし、マイナス金利を拡大させている。

ECBの金融政策決定会合は22日に行われる。量的緩和が今回発表されない場合にも、何らかの発表が行われるだろう。投資家は適切なポジションを取れているだろうか? 米国が初め、日本が継承した大規模緩和は、いまユーロ圏へと引き継がれようとしている。