世界最大のヘッジファンド、新興国株式に投資

引き続き機関投資家の米国株ポジションを開示するForm 13F特集である。ソロス氏、ドラッケンミラー氏に続き、今回はレイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのポートフォリオを見てみよう。以下は2017年3月末時点でのダリオ氏のポジションである。

トランプ相場後退で新興国株が好況

先ず、ダリオ氏のポートフォリオの中で目を引くのは大量の新興国株ETF、Vanguard Emerging Markets ETF (NASDAQ:VWO)の買いで、その金額は29億ドルである。

新興国株はトランプ相場の初期にはアメリカの金利高を嫌気して低迷していたが、その後金利上昇が限られる展開になると息を吹き返した。アメリカの長期金利のチャートと比べて見ると分かりやすい。

これは、ドルの金利が上がると資金がアメリカに集まり、新興国市場から資金が流出するからである。投資家は先進国が低金利であるために、よりハイリスク・ハイリターンの新興国に投資するのであり、アメリカの金利が上がればそうしたリスクを取る必要がなくなるということである。

したがって、逆に金利上昇が収まれば、新興国株への下方圧力が失くなるということになる。新興国株が反発し始めたタイミングは、金利上昇が収まったタイミングと一致している。昨年末から引き続き新興国株に投資しているダリオ氏はそこを見事に読んだのである。

落ちるナイフを握るダリオ氏

現在のアメリカの金利状況における新興国株の買いというのは、明確にグローバルマクロなトレードである。では個別株の方はどうか?

比較的大きいポジションから気になったものを取り上げてみよう。先ずはアメリカの百貨店大手Macy’s (NYSE:M)であり、ダリオ氏はこの銘柄を3,000万ドル保有している。

アメリカで百貨店と言えば、先行きとしては日本で言えば家電量販店のようなものである。日本よりも街が物理的に大きく、自動車がなければ買い物にも行けないのが普通のアメリカ社会では、日々の買い物において日本よりもAmazonなどのネット通販への依存が大きい。

したがって、百貨店までわざわざ「遠出」してネットよりも割高の商品を買うよりは、家に居ながら安い価格でものを買えてしまうネット通販の優位性が強く、百貨店銘柄は落ち目ということになっている。

Macy’sの株価は事実、2015年の高値70ドルから23ドルまで暴落した。ダリオ氏はこの落ちるナイフを握ろうとしている。3月末の開示から既に株価は更に下落しているが、ダリオ氏に勝機はあるのだろうか? 技術革新の犠牲となった銘柄の行方という意味において、アメリカの百貨店銘柄は眺めておく価値がある。

割安の米国シェール企業

個別銘柄でもう一つ気になったのは、産油企業Southwestern Energy (NYSE:SWN)である。こちらも金額は同じく3,000万ドルである。

こちらも落ちるナイフだが、Macy’sとは違い、財務諸表に改善の兆しが見られる。

他のシェール企業と同じく、長らく赤字を垂れ流していたSouthwesternだが、最新の2017年第1四半期の決算では黒字転換した。決算書によれば、それは産油施設の減損処理が終わったからである。

現在の株価は7.11ドルだが、第1四半期の一株当たり純利益は0.57であり、損益計算書を見る限りこの数値に無理はない。この水準が一年続けば、一年分の一株当たり純利益は2.3ドルとなり、P/E(株価収益率)は3.1程度となる。これは楽観かもしれないが、よほど控えめに見積もってもP/Eが10を超えることはなく、原油価格がもう一度暴落でもしなければ、やはりこの銘柄は割安と言うことが出来るだろう。

(※ 5/22 上記赤字の数値を訂正しました)

原油価格については以下の記事で詳細に解説している。原油価格が50ドルから暴落しない理由と暴騰しない理由について説明しており、またそういう予測をもとに利益を出せるトレードを紹介している。

また、原油価格の今後の動向にかかわらずSouthwesternに投資する方法としては、ジャンク債の空売りと組み合わせたペア・トレードというのも面白いだろう。ジャンク債は主にシェール企業などが発行する高利回り債のことを指すため、原油が下がってSouthwestern株が下落した場合にもジャンク債空売りから利益を得ることが出来、リスクが相殺されるということである。

結論

ダリオ氏については、やはりグローバルマクロの新興国株トレードは流石と言うべきだろう。機関投資家のポジションを開示するForm 13についてはソロス氏、ドラッケンミラー氏のものも紹介しているので、そちらも参考にしてもらいたい。