ビル・グロス氏: バランスシート縮小は無理

債券投資家のビル・グロス氏が、アメリカの中央銀行に対して投資家ならば誰もが言いたいことをはっきり言っている。

アメリカの中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)は6月のFOMC会合で利上げとともにバランスシートの縮小計画を発表した。詳細については以下の記事で説明したが、端的に言えばFedが量的緩和で買い入れた債券を徐々に市場に放流してゆくということである。

アメリカの金融引き締め

今や、アメリカの金融引き締め政策には二つの側面がある。一つは政策金利を引き上げる利上げであり、もう一つは債券放流によるマネタリーベースの縮小である。

2008年以降株価を押し上げた量的緩和とはマネタリーベースの拡大だったのだから、今回の措置はその逆の方向に同じインパクトを持つ金融政策ということになる。前回説明した通りである。

さて、この政策について言いたいことは一つである。それをグロス氏がCNBCによるインタビュー(原文英語)ではっきりと言ってくれているので、ここに紹介したい。彼は利上げとマネタリーベース縮小の両方について言及している。

インフレ率が2%以下で名目GDP成長率が4%以下という現在の状況を考慮すれば、政策金利は1.5%から1.75%の水準を超えることはないだろう。

これは現在の状況から利上げは2回が限度だとグロス氏が言っていることになる。彼は次のように続ける。

Fedは発表されているドットプロット(訳注:今後の利上げ目標を描いたチャート)に沿って利上げを行うことは出来ないし、国債を放流することも出来ないだろう。しかしそれが彼らの計画だとあくまで主張しているのだから、市場はそれに気を配るべきなのだろう。

まさにその通りである。わたしの周りの金融関係者でも、Fedの主張していることが可能だと思っている人間は一人もいない。アメリカ経済が既に減速を始めている状況で、量的緩和の逆戻しなど出来るはずがない。

あまりに荒唐無稽なことをイエレン議長が言い始めたものだから、投資家は皆当惑している。量的緩和の逆回転と言うべき金融引き締めにもかかわらず、ドル円の上昇が鈍いのはそのためである。誰もそれが可能だとは信じていないのである。

さて、それでもFedはFedであり、中央銀行としての信認を守るためにもある程度は有言実行を通すだろう。長期金利もドルも今後数カ月は上昇基調になるかもしれない。では、投資家はどうするべきか?

バランスシート縮小における投資戦略

前回の記事で指摘した通り、Fedが本当にバランスシート縮小を強行する場合には、金融市場は大荒れになることになる。そうなれば、投資家にとっては大きなチャンスが生まれることになるだろう。

金融引き締めが行き過ぎれば、市場は暴落しアメリカの金融政策は緩和に逆戻りになるだろう。だから個人的には金価格に注目している。

金融引き締めが行き過ぎれば、金価格は暴落する。これが買いのチャンスなのである。

前回Fedが強硬姿勢を緩めなければならなくなったのは2016年前半であり、以前からの読者はご存知の通り、ここでは2015年の終わりに金を購入し、2016年11月に利益確定したことをお知らせしている。

イエレン議長が強硬姿勢を緩めなければ、このトレードをもう一度行うチャンスがやってくるということである。金価格については下落が進めばまた記事を書くつもりである。中央銀行の失敗は常にグローバルマクロ系投資家の取り分となるのである。