米国マネタリーベース縮小で暴落する市場、銘柄一覧

アメリカの中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)は、現在進行中の利上げに加えてマネタリーベースの縮小、つまり量的緩和の逆戻しを行おうとしている。

投資家はFedが本当にこの強硬姿勢を実行できるのか懐疑的に思っているが、もしイエレン議長が本当にそれを実行すればどうなるかということは考えておくべきだろう。

そこで、この記事ではFedのバランスシート縮小が悪影響を与える市場や銘柄について纏めておこうと思う。

米国長期金利

先ずは長期金利である。長期金利とは10年物国債の金利のことであり、10年物国債はFedが市場に放出する債券である。債券は価格が下がると金利が上がるので、Fedが国債を売りに出せば長期金利が上がるということである。

ドルも株式市場もこの長期金利に影響されるので、長期金利の動向がすべての基本ということになる。長期金利のチャートは以下である。

また、長期金利については、2017年の後半から2018年にかけて懸念すべき要因がもう一つある。米国のムニューチン財務長官が検討している超長期国債の発行である。

マネタリーベースと超長期国債の発行という債券の売り要素の両方が本当に起これば、長期金利は危険水域である2.8%-3.0%のレンジを抜けてゆく可能性があり、そうなればこれまで好調で来ている株式市場も何かが危険だと気付き始めるだろう。以下は一年以上も前の記事だが、量的緩和バブルが存在する限り常に有効である。

ドル

さて、長期金利が上がればドルが上昇する。当然のことだが、一応書いておこう。取引する通貨ペアとして相応しいのはドル円だろう。

日銀が市場から完全に無視されているので、純粋にアメリカ側の事情だけを考えて取引することが出来る。

それでも日本の経済メディアで「日銀は市場と対話出来ているのか」などという議題について真剣に議論されているのを見かけると悲しくなる。そのような議論が成り立つのは日本国内だけである。そもそも海外勢は日銀のことなど忘れている。

ジャンク債

さて、大暴落の本命はこれだろう。アメリカの高利回り債である。

ジャンク債とは、信用の薄い(財務の怪しい)企業が発行する利回りの高い社債のことであり、現在アメリカでジャンク債を発行しているのは主に新興のシェール企業である。

Fedによる金融引き締めは二重の意味でジャンク債にとってマイナスに働く。第一に、金利上昇はジャンク債の価格下落を意味する。第二に、高金利によるドル高はドルで取引されている原油価格の下落をもたらし、原油価格の下落はジャンク債を発行するシェール企業の財政を危うくする。

そして何より、金融市場全体から流動性が失われるとき、真っ先に売られるのはリスク資産である。そしてジャンク債はリスク資産の典型である。

ジャンク債ETFのチャートを掲載しておくが、見ての通りジャンク債はまだ中期的な高値圏を推移しており、Fedによる金融引き締めが行き過ぎると踏んでいる投資家にとっては売り時と言えるだろう。

新興国株式

ある程度グローバルマクロ戦略に慣れた読者ならば、「金融市場から流動性が失われるときに売られる資産」と聞いて、この資産クラスを思い浮かべたのではないか。新興国株である。

先進国の投資家にとって、新興国株とは「先進国の資産のリターンが低い時に、より高いリターンを求めて投資する投資先」である。アメリカやヨーロッパなどが低金利になれば、欧米の投資家はより高い利回りを求めて新興国の資産を買うことになる。資金が先進国から新興国へと溢れ出してゆく。アメリカの量的緩和で新興国が潤うのはそういう理屈である。

では、逆にアメリカで金利が上がる時にはどうなるのか? 新興国から資金が流出するのである。新興国の通貨は下がり、株式市場も下落する。

新興国と言えば、3月末の時点で世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterが新興国株ETFに投資していた。

その後創業者のダリオ氏が投資判断を変えたかどうかは不明だが、その新興国株ETFのチャートは次のようになっている。

これまでは好調だったが、イエレン議長が金融引き締めを強行すれば、新興国株も為替と株価の両面で犠牲になることになるだろう。

米国株

また、米国株も当然ながら影響を受ける資産クラスの一つだが、個人的には震源地のアメリカよりもむしろ新興国でその影響が大きく出る可能性は高いと見ている。使い古された言い回しで言うならば、アメリカがくしゃみをすれば新興国が風邪を引くというわけである。

昨年より米国株が一貫して上昇している理由は法人減税であり、インフラ投資などよりも与党共和党の支持を得られやすい法人減税は、2017年の後半か遅くとも2018年の始めには何らかの前向きな動きが見られる可能性が高い。したがって、アメリカの株式市場では今後、法人減税による上昇圧力と金融引き締めによる下落圧力がせめぎ合うことになるだろう。

結論

Fedのイエレン議長がどれほど本気なのかという話はあるが、しかしそれでもFedの言うことであり、市場は今後数ヶ月掛けてそれを織り込んでゆく可能性はある。

最近のハイテク株の急落について、グローバルマクロ系のヘッジファンドの手仕舞いが発端ではないかという記事を書いたが、新興国株などを含め、そうしたリスクオンのトレードもそろそろ手仕舞うべき時期に差し掛かっているのではないか。

2017年後半には、先ずアメリカのGDP統計が悪化する可能性が高い。実体経済の減速に中央銀行の金融引き締めが加われば、リスク資産には大きなダメージとなるだろう。ガントラック氏はやはり正しいのである。