フォン・グライアーツ氏、金価格が永遠に上昇する理由を説明する

Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社配信動画でトランプ政権と金相場の行方について語っている。

4月の株安と米国債とゴールド

4月の株価下落で話題になったことは、まず米国債の下落である。

株価が下落する状況では米国債は普通上昇する。株式を売却した資金は預金になり、銀行はその預金で国債を買うわけだから、普通の状況下では株安では国債の価格は上昇し、金利は低下するのである。

しかしそれは、資金が株式市場からドル預金へと逃避する場合である。しかし資金がドルそのものから逃避する場合、ドルと同時に米国債も下落する。

それが4月の株安の最中に起こったことである。リーマンショックの時にも起こらなかった株価と米国債の同時下落が、トランプ政権の関税を止めた。

そしてドルと米国債から資金が流出した時、逃避した資金が流入したのがゴールドだった。金価格はちょうど米国債が下落に転じたタイミングで急上昇した。4月も上昇したままである。

ゴールドの価値

フォン・グライアーツ氏や同社のジョニー・ヘイコック氏らは、4月の株安の前から株式からゴールドへの資金流出を予想していた。

フォン・グライアーツ氏が予想したのは、ゴールドの価値が上がることではない。紙幣や株式など、これまで重宝されてきた金融資産のバブルが崩壊し、ゴールドの価格が相対的に上昇することである。

フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

何千年もの間、すべての通貨は崩壊してきた。ゴールドだけが例外だ。

古代ローマの時代から、通貨は政府によってその価値を希釈されてきた。

金貨や銀貨など貴金属がその価値を保証していた硬貨の時代には貴金属の含有率がどんどん減らされ、本来の価値が何もなくなった紙幣の時代には、それでも紙幣印刷によって紙幣の量が増やされ、紙幣の価値は薄められている。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で解説しているように、そうした紙幣のばら撒きは最初は何の問題もないように見えるが、経済が悪化してゆくにつれてばら撒きは過激になり、いつかはインフレを引き起こして問題が生じる。

そして政府の通貨に問題が生じるとき、政府が価値を希釈することのできない通貨を人々が求め始めるのである。

それが今金価格が高騰している理由である。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

わたしはゴールドのことを「永遠の通貨」あるいは「自然の通貨」と呼んでいる。興味深いことに、ゴールドは永続する唯一の通貨だからだ。そしてゴールドは自然によって作られたのであって、人によって作られたわけではない。

政治家と通貨とゴールド

何故政治家はばら撒きを止めず、歴史上常に通貨の価値を下落させてきたのか。

フォン・グライアーツ氏は、その理由の1つは政治家が歴史的に繰り返されてきた明らかなトレンドに無自覚なことであるという。彼は次のように説明している。

政治家はそもそも歴史を勉強しない。そして仮に勉強したとしても、自分が権力を握っている限りはそうならない、だから今回は別だと言うだろう。

だがサイクルは歴然と存在している。変わることはない。

そして仮に政治家がそのトレンドを自覚したとしても、そのトレンドを変えることは極めて困難だろう。

コロナ以後、アメリカの財政赤字は極めて大きい規模に達しており、トランプ政権は財政赤字をGDPの7%から3%に下げると言っているが、債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏はそれはGDPを4%下げることに他ならないと指摘している。

筆者も結局は金融緩和の力をある程度は借りなければならないだろうと予想している。つまり、経済と米国債を救済するためにドルを犠牲にするということである。

だからフォン・グライアーツ氏は次のように言う。

金相場がどうなるかは簡単に予想できる。理由は単純だ。政府と中央銀行がいつもゴールドの味方でいてくれるからだ。彼らは一度の例外もなく歴史上いつも行動によってゴールドを支えてくれている。他のすべての通貨を破壊してくれるからだ。

皮肉な言い方である。

トランプ政権とゴールド

トランプ政権は、世界的なヘッジファンドマネージャーであるスコット・ベッセント財務長官がいるからだが、こうした問題を自覚し、少なくとも取り組もうとはしている。

だがフォン・グライアーツ氏は、良い意味でも悪い意味でも政治家はこのトレンドを変えられないと言う。

フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

人々はトランプ氏を批判し、こうした混乱がトランプ氏のせいだとか、彼の政治は狂気だとか、トランプ氏のせいで状況は酷くなるとか言うが、政治家は時代に従属するものに過ぎない。

トランプ氏が時代の方向を変えることなどない。

積み上がった負債をトランプ氏が消してしまうことはできないのである。そしてそれはトランプ氏だけが積み上げたものではない。トランプ氏は巨大バブルの頂点に乗っているに過ぎない。彼に何が出来るだろうか。

そして更に興味深いことに、フォン・グライアーツ氏はトランプ氏の一見無茶苦茶なやり方は、積み上がった債務にけりを付けるために時代が必要とするものだと主張している。

フォン・グライアーツ氏は次のように続けている。

トランプ氏は完璧な混乱をもたらすからこそ選挙に勝った。

トランプ氏のような政治家は、サイクルの最終段階において世界を取り崩すために必要となる政治家だ。

結論

トランプ氏が良いか悪いかではない。巨大債務のバブルの終わりには、こういう政治家が求められ、良くも悪くもどうしようもない債務バブルにけりを付けてゆく。

投資家にとっての問題は、どのようにしてけりが付けられるかだろう。そして筆者は、ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』の中で、債務にけりを付けるためには金融緩和が避けられないと言っていることに着目したい。

ダリオ氏にとって、それは避けられないものであるばかりか、解決策なのである。借金を減らしながら同時に金融緩和をして金利を下げることを、ダリオ氏は「美しい債務再編」と言っている。

だがそれで同時に犠牲になるのがドルである。アメリカの債務問題を解決するためには、ドルか株式市場のどちらか(または両方)が犠牲にならなければならない。

そしてドルが犠牲になるとき、上昇するのはゴールドやシルバーなのである。

ゴールドの価値が永遠に上がるのではない。紙幣の価値が永遠に下がるのである。


世界秩序の変化に対処するための原則