フォン・グライアーツ氏: アメリカは人々に米国債の買い支えを強制する、ゴールドを現物で買え

引き続き、Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏の自社配信動画である。

今回は米国債の下落と資本統制について予想している部分を紹介したい。

フォン・グライアーツ氏らのゴールド上昇予想

ここでは去年からフォン・グライアーツ氏や同社のジョニー・ヘイコック氏のゴールド推しの記事を連発している。

そしてここ半年の金相場のパフォーマンスを見れば、何故筆者がそこまでゴールドの記事にこだわり続けたのかが分かるというものだろう。

去年からの読者ならばその意味が分かってもらえるはずだ。

金価格の上昇とアメリカの財政危機

ゴールドがここまで上がっている理由は、アメリカの財政赤字の問題のためにドルと米国債の信頼が揺らいでいるからである。

アメリカではコロナ後の金利上昇で米国債に多額の利払いが生じており、国債の利払いは財政赤字の半分に達している。

米国政府は財政赤字を新規の国債発行で賄っているから、債券市場は大量の米国債で溢れることになる。投資家は米国債の価格下落を元々懸念していたが、まさに4月の株安で米国債が急落した。それがトランプ政権の関税を止めたのである。

アメリカの債務が引き起こしているこの状況について、フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

世界最大の債務者が毎年何兆ドルも借金を増やしている。

そして米国債が下落した時、逃避した資金が流れ込んで上昇したのがゴールドだった。経済学者のラリー・サマーズ氏は株価の下落時に次のように言っていた。

起こっていることは4つある。株価の下落、国債の下落、ドルの下落、そしてゴールドの上昇だ。

その意味は明らかだ。ドル資産に対する恐怖、外国人がアメリカに資金を置きたいと思わなくなり、アメリカ人は国外に資金を逃がそうとする。

財政赤字から金融危機へ

何より驚くべきなのは、フォン・グライアーツ氏や部下のジョニー・ヘイコック氏が、株式や米国債からゴールドへの資金逃避が起こることを直前に予想していたことである。

そしてそれは関税の延期で一旦止まったが、財政赤字の問題は何も解決していない。

もちろんフォン・グライアーツ氏は長期的には米国債の下落は止まらないと考えている。財政赤字でいくらでも新規の米国債は発行されるが、買い手は限られているのだから当たり前である。

そして米国債が下落すれば、最初に困るのは国債を大量保有している銀行だろう。

フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

銀行システムが大問題を引き起こすまで待つのか? 米国政府や中央銀行は巨額の資金を投じて銀行を救済しなければならなくなる。

投じなければならない金額はまたたく間に急増し、インフレは高騰し金利は急上昇する。

米国債の下落から資本統制へ

米国債の下落が本格的に始まるとき、金融危機が始まる。

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏などは、日銀がやっていたイールドカーブコントロールをアメリカもやるようになると予想している。つまり、中央銀行が普通の量的緩和よりもアグレッシブなやり方で紙幣印刷して国債を買い支えるということである。

そうなれば当然、ドルは暴落することになる。

だが政府による国債の下落阻止には別の方法もあるだろう。フォン・グライアーツ氏は次のように予想している。

資本統制が来る。

政府は銀行を通し、銀行に預金や資産を持っている人にある程度の米国債を買うことを強要するだろう。

100年物国債を市場の決めた金利ではない恣意的な金利で買わされるかもしれない。

突飛な考えだと思う読者も多いかもしれないが、Bridgewaterのレイ・ダリオ氏も次のように言っていたことを思い出したい。

個人や企業は増税の見込みが大きくなっていることを察知し、ますます資金を海外へ逃がそうとする。

だから政府は資本統制を実行し、資金流出を止めようとするが、その国や通貨から逃げようとする経済的圧力はあまりに大きく、政府はそれを止めることができない。

一般の人々にとって突飛な考えであるものが、金融のプロフェッショナルの間ではコンセンサスとなっている。

フォン・グライアーツ氏も次のように述べている。

もしそうなれば、アメリカから資金が物凄い勢いで流出することになる。

また、同時に資金流出は資本統制で禁止されることにもなるだろう。そうなればもう別の国などで資産を保管することはできなくなる。だから今資金を逃しておかなければならないのだ。

日本でも最終的にはそうなるのではないのか?

結論

国債の下落が始まる世界では、これまでの常識では考えられないようなこと、これまでは発展途上国だけで起きていたようなことが起きるようになる。

だから途上国で金融危機の際にどういうことが起きるかを勉強しておくことが重要である。それが先進国でも現実となる。例えばキプロスでは預金封鎖の上に預金の9.9%が没収されるという事態が起きたこともある。

また、アメリカにも過去に似た事例はある。レイ・ダリオ氏は『巨大債務危機を理解する』において、アメリカで1929年の世界恐慌後にゴールドの売買や国外への持ち出しが禁じられた事例に触れている。

ダリオ氏がわざわざこのタイミングでそのような事例を研究しているのは、それがアメリカでこれから起きる可能性があるからである。

少なくとも言えるのは、現金を銀行に預けていてはいけないということだ。紙幣の価値が紙くずになる上に、政府は預金を簡単に封鎖し、没収できる。

フォン・グライアーツ氏はゴールドの現物を薦めている。現物のゴールドも売買が違法になることもあるが、政府にとって預金よりはよほど没収が難しいだろう。

実は没収が一番難しいのは取引所を経由していない暗号通貨なのだが、この点に触れている投資家は少ない。


巨大債務危機を理解する