レイ・ダリオ氏: 各国が協調してドルを下落させる新たなプラザ合意がドルを暴落させる可能性

引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の、デイヴィッド・ルービンスタイン氏によるインタビューである。

ダリオ氏は米国政府が紙幣印刷によりドルを下落させると予想しているが、今回はその具体的なやり方に言及している部分を紹介したい。

アメリカの財政問題

これまでの記事でダリオ氏は、アメリカはこれから数年以内に米国債の買い手不足に直面し、それを補うために中央銀行に紙幣印刷で米国債を買わせると予想していた。

いわゆるアメリカ版アベノミクスである。

トランプ大統領は常に貿易赤字を気にしていた。貿易赤字は強いドルの結果でもあるから、通貨安を望むのは当然の帰結とも言える。

紙幣印刷で国債を買い入れること(いわゆる量的緩和やイールドカーブコントロール)によってドル紙幣の価値を薄めるのは一番分かりやすいやり方ではある。

だが、司会のルービンスタイン氏は他の可能性を持ち出している。プラザ合意の再来である。

プラザ合意

プラザ合意とは、1985年にニューヨークのプラザホテルにG5の財務長官らが集まり、高過ぎるドルを是正するために協調的な介入を行なうと決定した合意のことである。

当時、1970年代の物価高騰時代をポール・ボルカー議長(当時)の高金利政策で終わらせたアメリカは、徐々に金利を下げつつあったが、金利は他の国よりも高いままだったため、強いドルによって貿易赤字が拡大していた。

それは強いアメリカを標榜したレーガン政権の時代であり、その意味でもトランプ政権と被る。

ルービンスタイン氏は、トランプ政権がドル安を目指すためにプラザ合意のような合意を貿易相手国に迫る可能性はないのかと尋ね、ダリオ氏は次のように答えている。

それも考えられるシナリオだ。

プラザ合意からブラックマンデーまで

それはとてもトランプ政権らしいシナリオではある。金融業界では、トランプ大統領の別荘の名前をもじって、その新たな合意はマール・ア・ラーゴ合意になると言われている。

だがこのシナリオには問題がある。プラザ合意に問題があったからである。

プラザ合意によって当時ドルはドイツマルクと円に対して大きく下落してゆくことになったが、その後アメリカのインフレ率が本格的に下がってきたこともあり、アメリカでは高金利政策の必要性がなくなり、今度はドルの下落が止まらなくなった。

当時のドル円のチャートは次のようになっている。

プラザ合意以来、ドルの価値は半分以下になった。このドル安相場で、投資家ジョージ・ソロス氏がドルを空売りしていたことは有名である。

それにしてもかなりの下落幅であり、アベノミクスによって円の価値がほぼ半分になったこととも重なる。

これからドルに同じことが起きるとすればなかなか恐ろしいことだが、最大の問題はそこではない。

ルーブル合意からブラックマンデーまで

当時の米国政府は止まらなくなったドル安を止める方法を探していた。そこでもう一度同じようにG7の財務長官たちを招集して、今度はドル高を目指そうという会合を開いた。1987年のルーブル合意である。

この合意ではアメリカが金融引き締め、日本とドイツが金融緩和の方向に舵を切り、ドルを上昇させることが話し合われたが、当時インフレを懸念していたドイツが合意を破って利上げを行なうと、アメリカもドル防衛のための利上げが避けられないとの観測が生まれ、当時金利低下でバブルとなっていた米国株はその足場を失い、天井から30%以上下落していった。

このシナリオは、米国の財政赤字の問題から派生しうるシナリオの1つである。

ダリオ氏の予想によれば、結局米国債を何らかの方法で人為的に買い支えなければならなくなるようだが、その具体的な方法が量的緩和なのかマール・ア・ラーゴ合意なのかはまだ分からない。

ダリオ氏は次のように述べている。

歴史を通して、政府がある状況に置かれたとき、政府はいつも同じことをする。

だからプラザ合意のようなことは十分考えられるし、更には外貨両替に規制がかけられることも考えられる。

確実に言えることは、ドルと米国債から逃げておけということである。

結論

これからの相場を理解するためには、少なくとも1970年代の物価高騰時代の知識があることは必須条件だが、これで投資家がもう1つ勉強しておかなければならないことが増えたと言える。プラザ合意である。

プラザ合意については、当時ドルを空売りしていたジョージ・ソロス氏が、著書『ソロスの錬金術』にプラザ合意前後の状況を日記に書いた投資日記を公開している。プラザ合意の瞬間については、ソロス氏は次のように書いている。

われわれは興奮の渦中にある。G5の財務相と中銀総裁がプラザホテルで緊急会議を開いた。これは歴史的な出来事である。

わたしは紙一重でポジションを手放さずに済み、一世一代の大儲けを果たした。円を翌週の香港市場で買い増し、上昇する相場のなかでホールドした。儲けは過去4年の為替市場での損失を補って余りあるほどである。というわけで非常にいい気分だ。

投資家はこれから非常にいい気分になれるだろうか。あるいは紙幣の価値下落に巻き込まれてゆくのだろうか。

それは投資家が正しい知識を持っているかどうかで決まるだろう。過去の相場についてきちんと知っておくことである。


ソロスの錬金術