世界最大のヘッジファンド: コロナ増税に警戒せよ

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がYahoo Financeのインタビューで増税の可能性について語っている。コロナ禍での景気刺激策には莫大な金額が費やされたが、それは国の借金で賄われる。それがどういう結果を生むかということである。

「ナチス台頭の日と同じ」

ダリオ氏は聞き手にコロナ禍の経済について解説してくれと言われ、やや投げやりにこう答えた。

言うまでもないだろう。話はシンプルだ。経済の脈拍が弱くなったので政治家は医者のように患者のもとに駆けつけ刺激策を注射した。つまり大量の小切手を切って国民に配った。その量は経済に空いた穴の5倍から7倍の金額だ。

何故投げやりかと言えば、金融家にはこうした政策の無意味さがよく分かっているからである。トランプ前大統領がそうした政策を発表した時、ジェフリー・ガンドラック氏は即座に批判した。

ダリオ氏も紙幣を刷っても経済全体に存在する商品やサービスの量が変わるわけではない、「紙幣は食べられない」と言ってこうした政策には批判的だった。紙幣は食べられないが株価や日用品の価格は上がる。

収入を給料ではなく株価の値上がりに依存している人々は得をし、貧富の差は拡大するが、大してお金を持っていない人々さえこうした政策を支持している。人々は自分が何を支持しているのか分かっていないのである。給与所得者がインフレ政策を支持するのは狂気の沙汰である。インフレの意味を分かっているのだろうか。

1933年3月5日

ダリオ氏は今回、更に踏み込んだ発言をしている。次のものである。

政府には当然資金がないので、中央銀行に紙幣を刷らせてお金を借りた。要するに1933年3月5日と同じことが起きている。

1933年3月5日に何が起きたか知っている読者が居るだろうか。ドイツでナチスが実権を握った議会選挙の日である。

何故この日の話が出てくるのか。ナチスのスローガンが「国民にパンと仕事を」だったからである。第1次世界大戦の敗北後、インフレの懸念があったにもかかわらず、ナチスは財政出動・インフラ投資を公約に掲げた。そして国民はそれを選んだ。ナチスは実際にはイデオロギーではなく経済政策で選挙を勝利したのである。

未曾有の景気後退に陥ったドイツ国民はインフレ懸念を無視して借金による財政出動を選んだ。今と全く同じ状況である。

政府から10万円が振り込まれて喜んでいる人はその後の推移を理解しているだろうか。ダリオ氏が危惧しているのはその後の増税や資本統制、そして独裁政治である。

増税と財政出動の組み合わせは政府の権力を絶大にする。それこそが独裁政治の始まりである。10万円は最初は皆に振り込まれたが、これからは政治家の靴を舐める人々に優先されて与えられてゆくだろう。人々は学ばないが政治家は学ぶからである。

独裁の原因は政治的イデオロギーではなく肥大した政府予算である。中国共産党とナチスドイツの共通点は、政府部門の経済に占める割合が大きいことである。この観点からフリードマン氏の以下の議論を読めば、彼の意味するところがよく分かるだろう。

資産家が逃げ始める

また、ダリオ氏はバイデン政権による富裕層への課税についてもコメントしている。

アメリカには2つの政党があるが、どちらも幾分極端なイデオロギーをはらんでいる。資本主義と社会主義と呼ぶべきだろうか。そして中間でいることは難しい。アメリカではどちらかの政党を選ばなければならないからだ。

資産への課税はこの派閥的対立をよりはっきりさせるだろう。2つの派閥の格差を埋めようとする大きな運動がアメリカには存在する。結果として大きな増税が行われるだろう。

ここからは投資家としての観点である。増税が行われれば株式市場はどうなるだろうか?

例えば法人税を減税すれば株式市場にとって得になる。逆に言えば、税率がどのように変化するにしても、それは資産価格と資金の流れに影響するということだ。

トランプ相場で株価が上がったのは法人減税のお陰である。法人税が減税になれば投資家の取り分となる企業利益が増えるため、法人減税は投資家の懐にお金を放り込むことに等しい。一方でバイデン政権は法人増税を考えている。株式市場への影響について投資家は考えておいた方が良いだろう。

また、ダリオ氏は資産そのものに課税する資産税についてもコメントしている。ダリオ氏自身が富裕層であるため、政治的議論には踏み込みたくないとして、資産そのものに課税する資産税が行われれば何が起こるかについてだけ述べている。

資産税については33の事例を研究したが、どのケースでも持続せず、大きな税収をあげることができなかった。

スイスには資産税があるが、極小さな税率で、持続している。ノルウェイも資産税があり、小さな税率で、持続している。しかし高い税率の資産税は様々な理由で持続しなかった。

ここでは細かく理由を挙げてはいないが、基本的に富裕層は自分で住む国を選ぶことが出来る人々である。例えばGO TOトラベルのようなものに自分のお金が使われてゆくのを見れば、富裕層でなくとも政治家のくびきから逃れたいと思うだろう。そしてお金があればそれが出来てしまう。税金を払うということは、政治家が自分の票田にお金をばらまくのを身銭を切って助けるということである。

前にも言ったが政治家がなりふり構わず増税を試みる時、富裕層と中間層の間で責め合いが起きるだろう。無益なことである。何故か政治家が非難されることはない。そしてダリオ氏はその結果について次のように示唆している。

その他にも様々な課税の可能性があるが、問題はそれが資本主義と資本主義者にとってどういう環境になるかである。何故ならば、それが資金の流れに強く影響するからだ。

ダリオ氏はぼかしながら話しているが、アメリカから富裕層が資金ごと逃げ出してゆくシナリオを明らかに想定している。ドル暴落からのアメリカ没落をダリオ氏はこれまでも示唆している。