ガンドラック氏: インフレが後退するなら景気も後退 金価格高騰へ

現在、債券市場における専門家と言えばジェフリー・ガンドラック氏とスコット・マイナード氏だろう。そしてマイナード氏がインフレ率のピーク到達を予想する一方で、ガンドラック氏はインフレを懸念すべきだと主張し続けている。

そして今回取り上げるのは、動画配信でガンドラック氏が「もしデフレになったら」の想定で話している部分である。

インフレ要素とデフレ要素

これまでに報じている通り、マイナード氏は一時的な半導体不足による自動車価格の高騰やコロナ禍で下落していた航空券代金などの回復が現在のインフレの主な要因だとして、インフレは一時的であると主張している。

一方でガンドラック氏がインフレを懸念する理由はいくつかあるが、その1つがアメリカの労働者が現在置かれている状況である。

ガンドラック氏によれば、手厚すぎるコロナ対策の失業保険拡充によって労働者は働かずに失業保険を申請したがり、ビジネスオーナーは従業員不足に悩まされているという。

明らかに労働者不足が問題となっている。中小企業(の払う給与)はアメリカ政府の現金給付と競争しなければならなくなっている。

そしてこの失業保険はビジネスオーナーだけの問題ではない。過剰な失業保険が存在することも問題ならば、それがなくなることも経済に別の問題を生むだろう。ガンドラック氏は次のように続ける。

拡充された失業保険の延長が取り消されるならば、可処分所得に突然非常に大きなショックがかかることは免れないだろう。そうなれば住宅や自動車などの高騰トレンドはかなり顕著に反転することになる。これがインフレが一時的だという主張の最も強い論拠だ。

ガンドラック氏はマイナード氏らの議論を認めている。しかし重要なのはこの続きである。

しかしこれは同時に次のことを示唆している。そうなれば経済の回復自体もかなり顕著に反転するだろうということだ。

政府による現金給付と失業保険が経済回復を牽引してきたことは以下の記事で説明した。

現在、経済は非常に大きく財政刺激に依存しており、追加緩和がなければ現在の成長率は完全に維持不可能である。ガンドラック氏は次のように推計する。

もし財政出動がなければ、GDP成長率はマイナス10%になる。

追加緩和を考慮するか

マイナード氏などデフレ派の主張の最も大きな問題は、現在決まっている政策だけで今後のインフレを占おうとしている点である。所与の条件だけを考えれば、自動車や航空券代などにおける一時的なインフレが収まれば、その分だけ全体のインフレ率も下がるだろう。

しかし現在の問題はインフレを起こすほどの資金を注入しなければ経済を刺激できないほどアメリカ経済が弱まったということである。これまではどれだけ紙幣印刷を行なってもインフレを起こさずに経済を刺激することが出来た。

しかし経済が本当に弱まってくるとインフレを起こさなければ経済成長を維持できなくなる。この状況でインフレが収まるということは、経済成長率には更に大きな低下が待っているということである。

結論

こうして紙幣印刷の限界はやってくる。先に限界に到達したアメリカを見て日本も同じ方向に向かわなくなれば良いのだが、日本の政治家にそれだけの頭はないだろう。

ガンドラック氏の主張はこういうことである。インフレ率は上がり続けるか、さもなければデフレとともに景気後退が来て追加緩和を余儀なくされる。そうなればどちらにしてもインフレになる。しかし後者の場合の最終的な物価高騰は、このままインフレが上がり続ける場合より酷くなるだろう。

その結果、市場における一番重大な帰結は何だろうか。ガンドラック氏は次のように答えている。

ドルの下落だ。これがすべての急所となるだろう。だからこれこそが一番重要な指標だ。

ドルが下落し、15ヶ月前に始まったコモディティの上げ相場が更なる上昇を迎える。そして最終的にはゴールドがかなり上昇することになるだろう。

ガンドラック氏は最近の金価格のリバウンドをかなり正確に的中させている。

金相場は次のように推移している。

そのガンドラック氏が更なる金価格上昇を見込んでいる。

そして何より興味深いのは、全く同じことをデフレ派のマイナード氏が言っているということである。

デフレを主張するマイナード氏とインフレを懸念するガンドラック氏だが、両者の議論は実は矛盾していないのではないか。マイナード氏が短期、ガンドラック氏が長期で同じものを見ているだけなのである。

そして2人とも株式市場への見方は悲観的である。追加緩和がなければ、株式市場も揚力を失うことになるのである。