マイナード氏: インフレは一時的で続かない

米国時間6月10日に発表されたCPI(消費者物価指数)に債券投資家のスコット・マイナード氏がコメントしている。

5月のインフレ統計

前回の記事で報じた米インフレ率は8.0%と高水準だったが、前月の9.6%よりは減速した形となった。

これを受けてマイナード氏は次のようにツイートした。

今日のCPIは現在のインフレの上昇が一時的なものとなることを示す更なる証拠だ。犯人は中古車、レンタカー、航空券代、宿泊料で、これらはCPI全体の6%しか占めていないのに前月比の上昇の半分を占めている。

マイナード氏が列挙したCPIの要素は皆コロナ禍の影響を大きく受けた産業、あるいは自動車については半導体不足の影響で一時的に供給不足となっているものだ。

マイナード氏は続くツイートで、筆者も前回の記事で挙げた自動車関連の一時的インフレを強調している。

需要が収まり自動車の生産が増え始めるにつれ、景気刺激策による需要と供給の制約によって生み出された新車と中古車の価格上昇は持続できなくなるだろう。

インフレは一時的か?

マイナード氏の指摘はもっともである。「一時的」という表現はFed(連邦準備制度)のパウエル議長の表現を踏襲したものだが、マイナード氏の根拠が確かなものである一方でパウエル氏の根拠はフィリップス曲線であり、はっきり言ってお話にならない。彼のコメントを再掲しておこう。

労働市場が弱いままなのに継続的な物価上昇が起こるというのはありそうにないように思える。

マイナード氏の議論はもっともなのだが、しかし彼は現状のインフレの加速方向の側面を議論していない。例えば前回の記事で指摘したように、CPI全体が減速した一方で住宅バブルは進行しているように見えることである。

あるいはマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が理路整然と並べたインフレ的な要素を思い出すべきだろう。サマーズ氏はマイナード氏の言うような一時要因をすべて認めた上で、それでも長期的なインフレ要素が存在していると述べる。

結論

筆者の意見は何か? ジェフリー・ガンドラック氏も予想していた通り、短期的なインフレ要素が剥落した後に長期的なインフレトレンドが明らかになり、それは恐らくコロナ前よりも高インフレとなる可能性が高いというものである。

しかし本音を言えば短期インフレのヴェールが剥がれた後のインフレ率は大した問題ではない。本当の問題はこれまで行われた緩和の結果がインフレになるかどうかではない。これまでの未曾有の緩和が今後も持続しなければならないのかどうかということである。

緩和がなければマイナード氏の言う通り経済は長期的にはデフレ側に傾くだろう。しかし同時に景気後退に逆戻りすることになる。

景気刺激という麻薬に慣れてしまったアメリカ経済はそれに耐えられるだろうか。仮にデフレシナリオに一度傾くとしても、生産性向上ではなく紙幣印刷に頼ることに慣れたアメリカの有権者たちはバイデン政権に更なる緩和を要求するだろう。ガンドラック氏の言う「追加緩和が来ない恐怖」である。

しかしそれは物価高騰という「追加緩和が来る恐怖」を引き起こす。そして最終的にはドル暴落シナリオである。だからマイナード氏は金価格が指数関数的に暴騰すると言っているのである。

アメリカの有権者は自分の国の没落を自分の手で選ぶことになるだろう。100年以上続いたアメリカの覇権が徐々に傾き始めている。