ヨーロッパ移民問題: 難民が国境警察に撃たれ、移民擁護の政治家が刺される事態に

ヨーロッパの移民問題が文字通り血みどろの悲劇となっている。将来行われるヨーロッパ各国の選挙では難民問題が一番の焦点となることになり、投資家にとってもフォローしておくべき内容だろう。

ブルガリア南東部の町で10月15日、国境警察の威嚇射撃の流れ弾がアフガニスタン難民の1人に当たり、死亡する事件が起きた。日経新聞によれば、国境警察がトルコから不法入国した移民を発見し、制止しようとしたところ抵抗したため、警告射撃を行った際、流れ弾がアフガニスタン人男性に当たり、病院への搬送中に死亡したとのことである。

国連などは国境警察の対応を非難しているようだが、国境警察としてはテロリストの可能性もある不法移民を取り締まらないわけにはゆかない。この問題の原因は国境警察でも不法移民でもなく、別の場所にあるのである。

移民の目的地ドイツ

そもそも移民(本当の難民と不法移民を含む)がヨーロッパに不法入国しているのは、ドイツのメルケル首相が難民を無制限に受け入れ、手厚く保護するということを無責任にも喧伝したからであり、しかもその後移民が大挙して押し寄せるとオーストリアとの国境を封鎖したため、難民たちは国境手前で立ち往生をしている。

この問題については、国境警察にも不法移民にも非はないのである。無計画に難民を受け入れるとしたドイツの態度が戦争難民に限らず多くの移民を招き寄せることは分かりきっていたのであり、今回の事件は当然の帰結である。

多くは賢明なヨーロッパ上流階級の世論も、初めは人道的な難民受け入れに傾いていたが、昨今の混乱を見るとそれが不可能な理想であることを悟りつつある。経済的にもヨーロッパに移民受け入れが不可能であることは以下の記事で説明した。

時事通信によれば、スイスでは10月18日の総選挙で、難民に厳しい姿勢を示す与党スイス国民党が議席を伸ばすという観測が出ているという。イギリスとハンガリーは以前よりヨーロッパ統一という考え方に反対してきたが、国民性から考えても次に加わるのはスイスではないか。

ケルン知事選の有力候補が刺され重傷

一方で、移民受け入れを主導するドイツでも悲劇が起こった。ケルン知事選で移民に寛容なメルケル首相の支持を受けるヘンリエッテ・レーカー氏が44歳のドイツ人男性に刺され重傷となった。NHKによれば、逮捕された男性はメルケル首相の難民政策に不満を漏らしていたという。

無計画な難民政策について、ドイツ国内でも相当のイデオロギーの対立があるようであり、これは以前から言うようにドイツ人の理想主義と利己主義の両方を取ろうとする国民性の象徴的事件である。

ヨーロッパは完全に混乱の極地と化している。しかし、ドイツではそれでもメルケル首相の率いるキリスト教民主同盟が与党であり、他国民には理解しがたいほどに、ドイツ人の通貨統一、国境撤廃への支持は相当のものである。

何故ドイツ人はそれでも移民を受け入れ、ヨーロッパ統一を支持するのか? ここで何度もドイツを批判してきた理由は、これらの悲惨な悲劇が、すべて単にドイツ人のナショナリティ・コンプレックスを解決するためだけに、ドイツ人の非常に個人的なヨーロッパ統一願望によって先導されてきたからである。

何故ドイツ人が「ドイツ人」よりも「ヨーロッパ人」を自称したがるかを書いたこの記事は、経済大国ドイツの本質を知る良い機会となるので、是非読んでもらいたい。非常に残念なことだが、ドイツ人がイギリスなど他のヨーロッパ諸国から危険視されてきた理由が書かれている。

統一か分裂か

投資家にとって一番の関心は、ドイツ人の願望のもとヨーロッパが統一されるのか、それともイギリス、ハンガリー、スイス、経済的にはギリシャなどの離脱によって分裂の方向に進むのかということである。とりわけユーロ圏が崩壊する場合、各国の輸出株への影響や為替の問題など、投資家が気にかけるべき論題が様々出てくるだろう。

イギリスのキャメロン首相は2017年までにEU離脱を問う国民投票を行うとしている。難民問題がこれ以上移民、欧州両方にとって悲劇となれば、イギリスがEUを離脱する可能性も高くなるだろう。混乱を極める欧州の動向をこれからも見てゆきたい。