中国恒大集団、デフォルト認定の取り消しを要求

もはやそれほどニュースにもならなくなったが、人々の関心にかかわらず状況の悪化が着々と進行しているという点で、中国恒大集団のデフォルト危機とサブプライムローン危機は似ている。

しかしここでは中国不動産市場のバブル崩壊を定期的に報じてゆこう。サブプライムの時もそうだったように、重要なことは大体初めは人々に無視されるからである。

恒大集団、ついにデフォルト

長らく倒産が懸念されていた中国の不動産ディベロッパー恒大集団だが、11月に支払期限を過ぎていたオフショア債券の利払いの猶予期間が12月6日に終わり、結局この利払いは行われなかったことから実質的にこの債券はデフォルトとなっていた。

しかし問題は恒大集団がこの事実を認めなかったことにある。通常デフォルトした企業は支払いを行わなかった事実を自分で認めて自他ともに認めるデフォルトとなるのだが、恒大集団は債券が本当にデフォルトしたのかどうかに関する外部の問い合わせを黙殺しており、格付け会社の中にはデフォルト認定を待っているところもあった。

しかし格付け会社にしても流石に「本人が認めないからデフォルト認定できない」という状況を長く続けることも出来なかったのだろう。Fitch Ratingsは恒大集団から回答がなかったため「デフォルトと推定」すると発表し、昨日ようやくS&P Global Ratingsも恒大集団を一部デフォルトと認定した。

S&P Global Ratingsには恒大集団からデフォルトを撤回する要請があったが、当然ながらS&Pは受け付けていない。撤回してくれと頼んだらデフォルトにならないとでも思ったのだろうか。

ともかくこれでようやく恒大集団は公式にデフォルトしたことになったことになる。

倒産に至るプロセス

恐らく読者の多くは1つの企業の倒産の過程にこれほど注意を払ったことがないだろうから意外に思うかもしれないが、倒産とは必ずしも白か黒かではない。実際には白が黒になるまでの長いプロセスが存在する場合もある。

恒大集団のデフォルトを受け、中国人民銀行の易総裁は恒大集団の株主と債権者の権利は法的順序に従って全面的に尊重されると再び発表した。デフォルトとは借金が返ってこないことである。では借金が返ってこない場合、貸主にはどういう法的権利があるのだろうか?

借金が返ってこないからといって、借りた恒大集団が完全に一文無しというわけではない。返す現金がないからといって何も持っていないわけではなく、恒大集団の場合には例えば自分で作った、あるいは作りかけの不動産物件などを持っているからである。

デフォルトした債券を持っている債権者には通常、まだ企業内に残っている資産を売却した売却益から取り戻せるだけの借金を取り戻す権利がある。債権者の間にも優先順位があり、デフォルトした企業の場合、残っている資産をすべて売却してもすべての借金を返すことは難しいことが多いから、優先順位の高い債権者から優先的にお金を受け取る権利がある。易総裁の言う「法的順序」とはそういうことである。

連鎖的デフォルトのはじまり

こうした基礎知識のもとで今回のデフォルトを考えると、今後の展開は明らかだろう。中国が債権者の法的権利を本当に尊重するならば、恒大集団は手持ちの資産を売って返せなかった借金を返すことを強制される。手持ちの資産は事業を継続するために必要なものもあるので利益を上げるための事業活動が継続できなくなる。

そうするとただでさえ借金を返せない恒大集団が更に借金を返せなくなり、恒大集団の他の債券もデフォルトすることになる。それが更に別の債券にも波及する。前から分かっていたことではあるが、恒大集団はもう終わりである。

しかも状況は恒大集団だけの問題ではない。不動産業界には恒大集団から回収できるはずの資金が返ってこない企業も出てくるだろうから、中国の不動産業界全体でのデフォルトの連鎖が始まるということである。佳兆業集団はすでにデフォルトとなっている上、他にもデフォルト寸前の企業は中国の不動産業界にはいくらでも存在する。

下落する中国の不動産価格

長年続いた中国人の不動産信仰も恒大集団とともに終わりを告げそうである。11月の中国の新築住宅販売価格は前月比0.3%下落し、住宅販売の金額は16.3%も減少した。ニュースでは中国の一部地域で駐車場価格が「白菜並み」になっていると報じられるなど兆候が出ていたが、ついに統計にも表れてきたということである。

ジョージ・ソロス氏が一番最初に指摘したように、これは何十年も続いた中国の不動産バブルの完全な崩壊の始まりである。

バブル期に日本人がそうだったように、中国人は不動産は下落しないものと思い込んでおり、良い不動産を買ってその値上がりに頼って老後を過ごすという計画を立てている人も多い。アメリカ人の資産形成が株式に依存しているとすれば、中国人の資産形成の中心にあるのは不動産なのである。

この不動産の数十年来のバブル崩壊が始まっている。これは中国経済にとってどういう意味を持つだろうか。そして中国経済の危機は世界経済にとってどういう意味を持つだろうか。日本の投資家も無関心を決め込んでいると痛い目を見る時期が近づいていると筆者は考えている。