世界最大のヘッジファンド: ウクライナは世界秩序をめぐる戦争の始まりに過ぎない

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで恐ろしいことを言っている。現在ロシアとウクライナの間で起こっている戦争は、世界秩序をめぐる新たな戦争状態の序章に過ぎないというのである。

ウクライナ危機の本当の意味

ダリオ氏はこれまで戦争が起こることを予想してきた。そしてそれは恐ろしいことに実際に起こった。

ダリオ氏はロシアのウクライナ侵攻を予想したわけではない。だが、むしろアメリカの力が弱まったことで、他の勢力がアメリカの覇権に挑戦してくることを予想したのである。

そしてそれは実際に起こった。しかもダリオ氏の予想を元に考えると、アメリカの力がどんどん弱まってくるにつれ戦争はどんどん起こるという結論に達することになる。

彼は次のように主張している。

ロシア・ウクライナ・米国・その他の関係諸国の緊張激化は今起こっている世界秩序の変化の中でもっとも注意を引くものだが、しかし個人的な意見ではこれは世界秩序の掌握をめぐって行われるもっと長期の戦争の中の最初の戦いに過ぎない。

金融の力と軍事の力

状況がややこしいのは、アメリカの覇権には軍事力のみならず、通貨と金融市場を支配する力が含まれるとダリオ氏が主張していることである。そして片方だけ見ていては状況を見失ってしまう。

どういうことか。アメリカはウクライナ戦争に参加しているが、しかし経済制裁という手段を通して参加している。

ダリオ氏はロシアとアメリカにとって勝利の条件を説明している。ロシアにとってはウクライナの無害化が勝利条件だとしている。

一方で、経済制裁を用いたアメリカの戦いについては次のように述べている。

アメリカが他国を従わせてロシアとの戦いに勝ち、しかも金融システムを武器として扱うことがアメリカにとって害よりも益になったならば、制裁は非常に有効だったという結論になるだろう。

「金融システムを武器として扱う」とは、例えばドルなどの通貨や西側の金融システムの使用に制限を加える制裁である。これはロシアの外貨準備を凍結するなど一定の成果を上げているが、一方で中国やインド、ヨーロッパではハンガリーなど、アメリカと距離を置く国々でドルを使用することを躊躇う動きが見られる。

そしてそれがアメリカにとって危険なのである。ここの読者には周知のことだが、アメリカが大量の財政赤字と貿易赤字を垂れ流しながらドルが下落していないのは、ドルが基軸通貨だからである。ドルは原油の決済などに広く使われているので、世界中にドルを買う需要があった。

しかしハンガリーがロシア産天然ガスをルーブル建てで払うことを匂わせるなど、ウクライナ以後この動きから離脱する動きが多い。

当然である。ハンガリーは「最大の目的はこの戦争に巻き込まれないこと」とし、中国やインドもこの戦争をNATOによる対ロシア戦争だと見抜いた上で中立を保っている。(西側の人々には中立がロシアよりに見えるのかもしれないが。)

こうした国々にとって脅威なのはロシアではなくアメリカである。彼らはアメリカに従うことを脅されている。それに従わなければ持っているドルが凍結されるかもしれない。この状況の解決策は、どう考えてもドルや米国債を持たないことである。

経済制裁の結末

制裁はどういう結果になるだろうか。ロシアに対する効果はどうやら薄いようだ。ドルルーブルのチャート(上方向がドル高ルーブル安)は完全にウクライナ前の状況に戻っている。

一方でドルへの影響はどうだろうか。ダリオ氏はウクライナ後のドルの地位について次のように語っている。

もし制裁が失敗に終われば、他国はアメリカの通貨と金融システムから逃げようとし、アメリカは基軸通貨と金融システムのコントロールという独自で最大の権力を失うことになる。これはアメリカの権力とドルの権力にとって本当に大きな問題となる。

それは当然ながら、基軸通貨だからいくら印刷しても下落しなかったドルの下落の始まりを意味する。この辺りはクレディスイスのゾルタン・ポズサー氏も同じ予想をしている。

ポズサー氏の分析は専門的なので読んでもらいたいが、ダリオ氏の懸念は単にドルの動向に留まらない。

彼は次のように続けている。

制裁が強力になりえなければ、アメリカは相手と比べて特別な力を持っていないということになる。他の列強と同じように張り合うだけの力はあるかもしれないが。

こうなった場合、世界は2つの側に二分され、この分断を解決するために使うことのできるのは、軍事力によって相手に甚大な被害を与えることだけだということになる。

どれだけ多くの国がその力を持っているか(例えばどれだけの国が核兵器を持っているか)、そして対立がどのように起こっているかを考えると、この状況は第1次世界大戦前の状況に似ている。ただ、諸国の持っている破壊力が途方もなく先進的になったということだけが異なっている。

これは恐ろしい状況だ。

結論

つまりダリオ氏は、ドルを武器として使える間はまだ良かったが、それが武器にはならなくなった瞬間、争いを解決する手段は軍事力しかなくなるということが言いたいのである。

ダリオ氏の予想は恐ろしいが、状況はどう考えても不可避のように思える。戦争が中東ではなくヨーロッパで起こったのは、西洋の力が衰えたからである。

だからベトナム戦争や朝鮮戦争など、自分とは離れたところで行われていた西洋の戦争が、彼らのところに近づいて行っているのである。

投資家として出来ることは、やはり現物資産を持つことだろう。

だが状況は資産の話だけではないように思える。戦争がヨーロッパとアメリカを本格的に巻き込んだとき、東西両方の言い分を聞こうとせず、片方の言うことを盲目的に信じ、西側の戦争に積極的に加担している日本は軍事的に危ないのではないか。