サマーズ氏: アメリカの雇用は弱く景気後退は近づいている

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、最近発表されたアメリカの雇用統計についてコメントしている。

雇用統計をどう見るか

発表された3月の雇用統計については以下の記事で報じた通りである。

失業率が上がったため、金融市場は金利上昇で反応したが、サマーズ氏が筆者と同じくアメリカ経済への弱気の姿勢を継続していることが興味深い。

サマーズ氏は次のように述べている。

今回の雇用統計はあまりニュースとしての価値のあるニュースではなかったと思う。まず事前予想とほとんど同じだった。

それに雇用や失業に関するこれらの数字は、実際に経済で進行していることに対する遅行指標だからだ。

この辺りのコメントも筆者の雇用統計に対するコメントと同じである。

経済には様々な指標があるが、景気後退時に一番早く反応するのは金融市場であり、株価や金利が下がり始める。

それは2022年から既に始まっている。だが雇用は一番反応が遅い要素である。企業にとって雇用を減らすのは難しいため、状況が本当に悪くなり始めてから雇用を切り始める。

だから雇用状況が悪化したことが明らかになった頃には、経済は既に取り返しの付かないところまで悪化していることになる。だから雇用統計を見て景気後退になるかどうかを読むことは出来ないのである。

サマーズ氏の挙げる先行指標

ではどういう指標を見れば今後のことが分かるのか。サマーズ氏は次のように述べている。

PMIのような将来に関する今週の数字を見れば、非常に弱い数字となっている。新しい季節調整の適用された失業保険申請者数を見れば、以前より大幅に弱くなっていることが分かる。求人の数は下がってきている。

例えば失業保険を受給している人の数は次のように推移している。

去年の後半から既に悪化しているのである。

ちなみに失業率(労働人口に占める失業者の割合)は下がっているので、失業者の数自体が増えているわけではない。失業者のうち、失業保険を受けている人の数が増えているのである。

基本的に会社都合退職で失職した人は失業保険を受けることになるので、会社は人を減らし始めているということを意味している。過去のデータを見ても、失業保険受給者数は失業率に先行して上がり始めることが多いようである。

結論

このサマーズ氏の指摘が正しければ、労働市場の悪化は始まっており、市場が経済に強気だと判断した雇用統計はむしろアメリカ経済の軟化のシグナルだったことになる。

だが一方で、インフレ率はまだ高止まりしている。金利を下げればインフレが止まらず、高金利を維持すれば軟化しているアメリカ経済が更に弱まることになる。

サマーズ氏は次のように述べている。

景気後退の可能性は高まってきていると言わざるを得ないだろう。Fedは難しい決定を強いられることになる。

商業不動産のような様々なものが減速している兆候が次々に表れていることを考えると、判断は容易ではない。

アメリカ経済はどうなってしまうのか。それはインフレ政策でインフレが起きた時から分かりきっていたのではないだろうか。

ドル暴落の瞬間が近づいている。それはアメリカの覇権が何割か消えてなくなる瞬間でもあるだろう。