世界最大のヘッジファンドに就職するには? 創業者が採用と面接を語る

少し前のものになるが、ヘッジファンド業界賞(原文英語)の表彰式において、世界最大のヘッジファンドBridgewaterの創業者レイ・ダリオ氏が優れた人材とはどういうもので、そうした人材を採用するためにはどうすれば良いかについて語っている。

将来ヘッジファンドで働きたいと思っている読者や、あるいはヘッジファンドを設立しようと思っている読者にも参考になる内容だと思ったのでこの記事ではその内容を紹介したい。

成功のための魔法の公式

ダリオ氏は「ビジネスにおける成功のための魔法の公式は人と文化だ」と言う。

人には大抵次のような質問をされる。「成功するためには何をすればいいですか?」「どうやってポートフォリオを構成すればいいですか?」「どうやってそのような深い知識を身に付けたのですか?」。しかし、成功のためのもっとも重要なレシピは人と文化なのだ。

ダリオ氏はこの原則はヘッジファンド業界に限らず、あらゆるビジネスにおいて通じるものだと言う。だからダリオ氏は新しい人材を採用するとき、優れた人々と優れた文化を社内に作ることの出来るように採用の基準を考えるのである。

人材を決める3要素

ダリオ氏によれば、誰かを採用するかどうかを決める時に考える要素は3つだという。その3つとは、価値観、才能、そして技能である。彼は次のように説明する。

誰かを採用するときに重要な要素は3つある。先ずは価値観だ。価値観は組織のなかで多様な人々を長期間纏め上げられるものであり、幸せな結婚をするため、親友を持つためにはそうした共通の価値観がなければならない。これはもっとも重要なレシピだ。

次に先天的な才能だ。一部の人々は生まれながらに数学や芸術に秀でている。

そして技能だ。多くの企業は技能を一番重要だと勘違いして、「あなたにはどのような技能がありますか?」「以前に同じ仕事をしたことがありますか?」などの質問をする。しかし「あなたが働く理由は何ですか?」と聞く企業はほとんどない。

これはむしろ、新卒で金融業界に入ってくる学生の方がよく聞かれる質問かもしれない。中途採用で元々金融業界に働いている人材に「何故金融業界で働くのですか?」などと企業が聞くことはほとんどない。しかし学生であればこうした質問を聞かれるかもしれない。

そして若者は「金融を通じて経済に貢献したいから」あるいは「単刀直入に言って給料が良いから」などと的外れな回答をして、そしてそれを30代そこそこのバンカーが更に的外れな価値観で知った風に批評し、採用が決まったり決まらなかったりするわけである。新卒採用は日本の政治と同じ程度に茶番だが、日本の政治ほどに人に害があるわけではない。だから微笑ましく眺めておこう。

世界最大のヘッジファンドの面接

ダリオ氏に話を戻そう。世界最大のヘッジファンドではこの質問に対しどういう回答をした人材が採用され、どういう回答をすれば不採用になるのか? 先ずダリオ氏が駄目出しするのは次のような回答である。

あなたは何のために働くのか? もしあなたが金のために仕事をするのであれば、あなたはBridgewaterの文化には属さない。あなたが金や肩書きのために働いているのであれば、あなたはBridgewaterの文化には属さない。

われわれに必要なのは同じ文化に属し、その文化のなかでコミュニティを作ってゆくことの出来る人材だ。企業には共有する価値観が必要だ。

ではダリオ氏はBridgewaterにおいてどういう価値観を共有できる人材を求めているのか? 彼はBridgewaterの目指すものを次のように説明する。

われわれは素晴らしい成果を目指して活動する。しかし素晴らしさとは金のことではない。ストラディバリウスは美しいヴァイオリンを作ったが、それは高価なヴァイオリンを売って金儲けをするためではない。そこには美学があった。そしてわれわれのビジネスに関わる人材はそうした美学を持っていなければならない。

それは投資のプロセスにおける美学であり、クライアントへの対応における美学であり、すべての側面においてそうした美学がなければならない。

ダリオ氏は仕事の質というものにこだわる。そしてそのこだわり方はある種の職人気質のようなものである。ダリオ氏はこう続ける。

長い間仕事をしていれば、金か仕事の質かを選ばなければならない瞬間があるものだ。そういう時に金ではなく素晴らしい仕事をすることを選ぶことの出来る文化が必要なのだ。

そうした選択をしなければならないのは金融業界に限ったことではないだろう。しかし金融業界にはそうした汚職が沢山ある。何も分からない高齢者に屑のような投資信託を売り付ける日本の銀行員や、あるいは投資銀行に行けばそのような仕事はいくらでも目にすることが出来るだろう。

だがそういう汚職に手を染めている人材は皆、下らない仕事しか行うことが出来ない。あるいは、そういう下らない仕事しか出来ないから、そういう仕事をしているのである。

だからダリオ氏にはそういう人材を排除するために、こうした質問を面接で投げかけるのである。

逆に言えば、どういう人材を企業が望むのかによって、その企業の質を推し量ることも出来る。もしあなたが金融業界で働いていて、ダリオ氏が駄目出ししたような答えをしたにもかかわらず採用されているのであれば、その企業の「価値観」とはそういうものなのだ。

ダリオ氏の発言には直接現在の相場に関するもの以外にも示唆に富んだものが多い。個人投資家への助言について語った以下の記事もそうである。

これからもダリオ氏の発言で何か面白いものがあれば取り上げてゆきたいと思っているので、楽しみにしていてほしい。