アメリカ大統領選挙: 討論会のトランプ氏、クリントン氏の発言、政策まとめ

2016年のアメリカ大統領選挙の投票日が近づき、共和党のドナルド・トランプ氏および民主党のヒラリー・クリントン氏の選挙活動も佳境となっている。

全米の注目を集めた3回の討論会も既に終了した。1回目、2回目の討論会ではほとんど政策が語られず、両候補とも相手の個人攻撃に終始していたが、最後の討論会では多くの議題に関する比較的真面目な討論となっているので、この記事では両候補の政策を振り返る意味でも討論会の内容を一部翻訳し、紹介する。

移民政策

移民政策はトランプ氏の政策のなかでもっとも有名なものだろうから、先ずはこの議題から始めよう。移民については第三回の討論会でトランプ氏、クリントン氏ともに立場を明確にしている。先ずはトランプ氏の主張からである。

先ず第一に、クリントン氏は不法移民に恩赦を与えようとしている。そうなれば大惨事となる。何より、長年正当に順番待ちをしてきた人々にとってあまりにフェアではない。

われわれは強い国境を必要としている。わたしはこれまで、子供を不法入国者に残酷にも殺された多くの人々に出会ってきた。今日、会場にもそうした4人の母親が来ている。

麻薬が国境から忍び込んでいる。国境がなければ国は存在しない。

16,500人もの国境警備隊が先週わたしを公認候補にした。彼らの仕事がより困難に直面しているということだ。彼らは誰より状況を知っている。彼らは強い国境を望んでおり、それが必要だと知っている。

わたしは壁を作りたい。アメリカには壁が必要だ。国境警備隊も壁が必要だと言っている。

この国には今、悪人が入国している。彼らはこの国から出ていかなければならない。わたしは彼らを追い出し、国境を強化する。

一方で、クリントン氏は不法移民(アメリカでは面白いことに「未登録移民」と呼ばなければ「ポリティカル・コレクトネス」に反するとされている)により寛容な姿勢を示している。

トランプ氏が話しているあいだ、わたしはここラスベガスで出会ったカーラという女の子のことを考えていました。彼女は両親が強制送還されてしまうのではないかととても不安がっていました。彼女はアメリカ生まれなのですが、両親は違います。

彼女の両親は彼女に良い人生を送らせるために出来るすべてのことをしています。わたしは家族をばらばらにしたくありません。子供から親を奪い取りたくありません。現在この国で行われている強制送還を見たくありません。

現在アメリカには1,100万人の未登録移民がおり、彼らには400万人のアメリカ市民の子供(訳注:アメリカに生まれれば無条件で市民権が与えられるため)がいます。

トランプ氏はすべての未登録移民を強制送還すると主張している。それは大規模な法の執行プロセスが必要となることを意味しています。執行官が学校から学校、家から家へと歩き回り、未登録となっている人々を集めて回り、彼らを列車やバスに乗せてこの国から追い出すことになります。これはアメリカを現在存在しているアメリカではなくしてしまう考えであり、アメリカをばらばらに引き裂いてしまう考えです。

移民問題についてはヨーロッパの状況を見るのが一番早いだろう。ヨーロッパにおける移民問題はその深刻さを極めている。ヨーロッパ各国は移民を互いに押し付け合い、ハンガリーは移民の受け入れを拒否し、拒否しても海から流れ着いてくる移民を止めることの出来ないイタリアは、ハンガリーの拒否を非難している。互いが互いを罵り合う状況である。

移民による多くの犯罪が行われたが、被害者は現地の住民だけではない。当の移民たちは、ヨーロッパで生活を始めたところで、彼らが予想していた夢のような生活は送ることは出来ず、貧困に苦しんでいる。言葉も文化も生活習慣も違う異国で生計を立てるのは、容易ではないからである。

中東のテロリスト流入の問題に加え、テロリズムとは直接関係のない単なる移民でさえ殺人や強姦に走っているのはそういう背景がある。ドイツの推進した計画性のない移民政策は現地と移民の両方の生活を蝕んでいるのである。

結果として、これまで自己都合で移民を増やし続けてきたドイツにおいてさえ、メルケル首相の支持率が危うくなってきている。今もなお移民を増やす話をしているのは、面白いことに先進国で日本だけである。日本は本当に、既に沈みかかった船に自分から乗るのが好きらしい。

外交政策

日本の読者には、トランプ氏の日米同盟に対する見方を気にしている方々が多くあるかもしれない。討論会でも議論に上がっており、トランプ氏の発言は以下のようなものである。

アメリカは他国を守っている。そのために多額の予算がつぎ込まれている。彼らにとっては世紀のバーゲンだ。わたしの主張は、こうした合意について再交渉してゆくということだ。何故ならば、アメリカにはこれ以上、サウジアラビア、日本、ドイツ、韓国とその他多くの国を守ってゆくお金がないからだ。こうした出費を続けることは出来ない。

アメリカは日本に対して非常に丁寧にこう言わなければならない。ドイツに、韓国に、そしてその他すべての国に、「あなたがたは自分を自分で守らなければならないのだ」と言わなければならない。

日本人の読者に対して一つだけ言えることは、仮に中国が日本に攻めてきたとしても、アメリカは日本のために中国と戦争などしないということである。これはアメリカ人の立場になって考えてみれば明らかである。何故他国のために全く関係のない自国が戦争に巻き込まれなければならないのか? アメリカ人の多くは当然そう考えるだろう。アメリカの有権者は他国のための戦争を承認しない。

にもかかわらず日米同盟に奇妙な幻想を抱いている日本人が多いのは、そういう日本人のほとんどがアメリカ人に会ったことすらないからである。知りもしない相手に勝手に幻想を抱いて勝手に失敗する、それが日本の外交である。

日本人は相手の立場に立って外交を考えるべきであり、少なくとも相手と会話をしてから相手との関係を考えるべきだろう。アメリカ人を一人も知らずして、アメリカ人を語ることは出来ない。当たり前のことである。そういう不可能が日本人の間で横行している。日本人は他国というものを何も知らないのである。

貿易

貿易については中国との貿易摩擦が問題となっており、クリントン氏が以下のような指摘をしている。

中国との間にある問題の一つは、中国による鉄鋼とアルミニウムの違法な廉価販売です。わたしは上院議員としても、国務長官としてもこうした状況に反対してきました。しかしトランプ氏は中国から鉄鋼とアルミニウムを買っている。ここラスベガスにあるトランプホテルは中国の鉄鋼で出来ています。

トランプ氏は以下のように反論している。

簡潔な質問を一つだけしたい。クリントン氏はもう13年も要職に就いている。何故これまでの間に状況を改善しておかなかったのか?

その他

第三回の討論会は多用な議題について討論しており、その他にも中東政策など様々なことが話されている。ISIS(イスラム国)からのモスル奪還などが主な議題だったが、時事的なもので長期の政策についてではなかったのでここでは割愛する。トランプ氏がイラク戦争を非難していたことは以下の記事で報じている。

討論会でどちらが勝った、負けたという話や世論調査などをアメリカのメディアでは報じているが、討論会などは結局自分の支持する候補が勝ったと思うものであるので、それもあまり意味のない話だろう。

では11月8日の選挙当日ではどちらの候補が勝つのだろうか? それを予測する一番の資料は、以下の記事で解説した州別の支持率だろう。クリントン氏の優勢とトランプ氏の苦戦というのが現在の状況だが、特定のいくつかの州で逆転すれば全体が覆る可能性があるということも説明しておいた。

イギリスのEU離脱国民投票といい、今年は注目を集める投票が多い。アメリカ大統領選挙の様子は引き続き報じてゆく。