チューダー・ジョーンズ氏: 米国は株価暴落か物価高騰のどちらかを選ぶことになる

引き続き、Palm Beach Civic Associationによるポール・チューダー・ジョーンズ氏のインタビューである。

アメリカの財政赤字

これまでの記事では、ジョーンズ氏はアメリカの財政赤字とそれに依存してきた米国株の株価上昇について語ってきた。

これまでは借金のために巨額の国債を発行して、中央銀行に量的緩和でそれを買わせて資金を賄ってきたが、中央銀行はインフレのために量的緩和を止めている状態にある。

だからこのまま国債を大量発行をすれば国債価格が大きく下落する危険があるのである。

アメリカ経済の問題

国債発行すれば国債価格が下落し、発行しなければ株高が維持できず経済は沈んでゆく。

米国経済はこれからどうなるのか。ジョーンズ氏は次のように述べている。

この状況が進む道筋は2つある。

歴史的に多くの国で行われてきたのは緊縮財政だ。例えば2010年のギリシャだが、ギリシャは特殊な例だ。EU加盟国で、EUがギリシャに緊縮財政を強制して人々を泣かせた。

ギリシャはユーロに加盟したことによって貿易赤字が拡大し財政危機に陥った。ギリシャの経済危機を解決しなければユーロ圏が崩壊するが、ギリシャの債務を肩代わりしたくなかったドイツはギリシャに緊縮財政を強要した。古い記事だが経緯は以下の記事に書いてある。

ジョーンズ氏は次のように続ける。

他には現在のアルゼンチンだ。こちらの例では誰も何も強制しなかった。彼ら自身の無謀さが経済をインフレスパイラルに追い込み、その後彼らは現在の大統領を選んだ。彼は過激なやり方で緊縮財政を行なうだろう。

こちらは最近選出されたアルゼンチンのミレイ大統領のことである。彼はオーストリア学派の経済学者で、政治家が私利私欲のために積み上げた政府債務を毛嫌いしており、緩和政策によってハイパーインフレに陥ったアルゼンチンで赤字削減を行おうとしている。

アメリカが財政赤字の問題に対して緊縮財政で対応すればどうなるか。ジョーンズ氏は次のように説明している。

だからどう対処するかによって市場への影響は大きく変わるが、緊縮財政を選べば増税が来る。

そうなればどうなるか。GDPはどうなる? GDPはダメージを受ける。企業利益はどうなる? 企業利益はダメージを受ける。

そうなれば株式市場はどうなる? 株式市場は崩壊するだろう。

ジョーンズ氏によれば、米国株は財政赤字の際限なき増加を前提に上昇してきた。それがなくなれば行きつく先は1つである。

だがジョーンズ氏は次のように言う。

それが1つの方法だ。そして長期的にはそれが最良の方法だろう。短期的な痛みが長期的な利益となり、分相応の経済的暮らしをすることで経済は安定する。

それが恐らく最良の道だ。

それよりも悪い道

ジョーンズ氏は株式市場が崩壊する道が最良であると言う。ではそれよりも更に悪いシナリオとは何か。

ジョーンズ氏は次のように言う。

過去2000年を振り返れば、債務を抱えた国家や帝国の末路はインフレーションだ。インフレで債務をなかったことにする。

それは気にせず借金によるばら撒きを続ける道である。デフレであった限りにおいて、ばら撒きは問題にならなかったように見えた。だが利下げは量的緩和に進化し、量的緩和は現金給付に進化し、そしてついにインフレを引き起こした。

今、アメリカ経済は転換点にある。まさにジョーンズ氏の言うように、高金利を続けて経済を下降させてしまうのか、金利を下げてインフレを再燃させるのかである。

そしてインフレは紙幣を保有するすべての人の資産を犠牲に、政治家の作り出した政府債務を帳消しにするやり方である。

だからジョーンズ氏はそれは株価暴落より悪いと言っているのである。

ジョーンズ氏は特に、今年の大統領選挙でトランプ元大統領が再選した場合にそのリスクが大きいと言う。

もしトランプ氏が再選すれば、彼はパウエル議長に大きな圧力を加えるだろう。

パウエル議長は大きな利下げ圧力を受けることになる。それが株式市場が上がっている1つの理由だ。

物価高騰か経済恐慌か、アメリカはどちらを選ぶのだろうか。

歴史的には、多くの国がインフレによって滅んできた。ジョーンズ氏の言うように、大英帝国もその前のオランダ海上帝国もインフレの道を選んで滅んでいったのである。

過去の覇権国家の興亡についてはレイ・ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』に詳しく書かれている。コロナ後に現金給付が行われた段階ですぐに過去のインフレの研究を始め、著書に纏めたダリオ氏の慧眼には脱帽するほかないだろう。


世界秩序の変化に対処するための原則