サマーズ氏: 今の米国の金融政策は全然引き締め的ではない

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで先日の米国雇用統計について語っている。

雇用統計へのコメント

先日発表された2月の雇用統計は、筆者も驚くほど弱い数字だった。

失業率は上昇し、賃金の伸びは減速していた。

だがサマーズ氏はこの数字にもあまり驚いていないようだ。彼は次のようにコメントしている。

今回の雇用統計がアメリカ経済に対する人々の本質的な見方を変えたとは思わない。

今回の雇用統計の後も変わっていないアメリカ経済に対する見方とはどのようなものか。サマーズ氏は次のように述べている。

アメリカ経済は強い。インフレ率は下がってきているが、Fed(連邦準備制度)の2%目標には届いていない。だが雇用の伸びは、緩やかになってはきたもののいまだ人口増加よりも速いペースだ。

アメリカの中立金利

サマーズ氏は1回の経済統計にあまり反応せず、より長期的でマクロ経済学的な視野でアメリカ経済を見ているようである。彼はこう述べている。

アメリカ経済には非常に大きな変化があったが、Fedが十分それに気付いているかどうかは分からない。

Fedは今年3回の利下げをすると言っている。それはインフレ率が少なくとも3%付近まで下がってきたこと、そしてそれがそのまま続くとFedが考えていることが前提にある。

しかしサマーズ氏はFedの見方に意見があるようだ。彼は次のように述べている。

アメリカの中立金利はFedの言う2.5%を大幅に上回っている。

中立金利とは、アメリカ経済にとって強すぎず弱すぎない、プラスにもマイナスにもならない中立的な金利水準のことである。

サマーズ氏はこの中立金利がコロナ後に大きく変わったと考えている。だから例えばFedが中立金利を2.5%と考えて政策金利をそこまで下げようとすれば、それはサマーズ氏にとって利下げのやりすぎなのである。

中立金利が上がった理由

サマーズ氏は次のように続けている。

過去何年かの経験から、市場は恐らく2%超ぐらいが普通のCPI(消費者物価指数)のインフレ率だと思っている。

だが巨額の財政赤字、更なる公共事業、再生エネルギーやインフラへの多額の投資、人工知能に関連した様々な資本コスト、高齢化による生産人口の減少、海外からの資本流入の減少、これらすべてがもっと高い中立実質金利を示唆している。

コロナ後の経済にはインフレ的な要素が多過ぎるので、金利をコロナ前よりも高くしなければインフレを抑えられないとサマーズ氏は考えている。

結果として、5%台まで利上げされた政策金利は人々が思っているほど引き締め的ではないとサマーズ氏は言う。

彼はこう続けている。

だからFedが5%の金利と2.5%だと彼らが言う中立金利を比べ、人々が金融政策は非常に引き締め的だと言うとき、それは間違っている。

中立金利はそれを大きく上回っている。だから現行の金融政策は一般に思われているよりもまったく引き締め的ではない。

結論

サマーズ氏のこの考え方は、現在の金融市場で多くの人が抱いている1つの疑問を解決する。何故金利がこれほどまで上がったにもかかわらず、アメリカ経済はまだ景気後退になっていないのかということである。

サマーズ氏にとって答えは簡単である。まだ十分引き締め的になっていないからだ。彼は上記の理屈から次のように言う。

だから非常に引き締め的なはずの金融政策と、いまだにかなり強い経済が共存しているわけだ。

金利水準は引き締め的な「はず」なだけで、実際にはそれほど引き締め的ではないとサマーズ氏は主張している。

だからアメリカ経済の運命は動かない。十分に引き締め的になってインフレ率が本当の意味で下がり、そして経済成長率も同時に沈むのか、あるいは「まだ」十分に引き締め的ではないからその間は経済が延命されるのかである。

問題はやはり、景気後退とデフレなのか、景気後退とインフレなのかである。もうすぐCPIが発表されるので、とりあえずそれを待ちたい。