ゲイリー・コーン氏左遷で2018年以降もイエレン議長再任か

米国のトランプ政権の混乱で経済政策の実現が危ぶまれるなか、金融市場のもう一つの関心事は2018年2月に任期終了を迎えるFed(連邦準備制度)のイエレン議長の後継者が誰になるかということである。

イエレン議長本人の再任の他に有力候補として報じられていたのが、元Goldman Sachsのコモディティ・トレーダーでトランプ政権の国家経済会議の委員長を務めているゲイリー・コーン氏だったのだが、どうもコーン氏とトランプ大統領の仲が上手く行っていないようだ。

ユダヤ人銀行家コーン氏とトランプ大統領

事の発端は例のバージニア州シャーロッツビルにおける騒動である。白人史上主義者の集会が反対派と衝突した中で、反対派の女性が車で轢き殺された事件で、トランプ大統領が白人至上主義者らを即座に批判しなかったことが大手メディアの間で騒動になっていたが、ユダヤ人であるコーン氏がこのトランプ大統領の反応に難色を示したことが大統領には気に入らなかったらしい。

トランプ大統領はシャーロッツビルにおける衝突について「双方に悪い人間が居た」とした発言に関連し、コーン氏はFinancial Timesにおけるインタビュー(原文英語)で、「自由と平等のために立ち上がる人々は、決してネオナチやKKK(訳注:白人至上主義者の団体)と同等ではない」と主張して、トランプ大統領の発言を間接的に批判した。

この批判の背景にはコーン氏のユダヤ人としての感情があるらしい。コーン氏は同じインタビューで、自分の進退について「『ユダヤ人に国を乗っ取らせるな』と主張するネオナチのために、一人のユダヤ人が職を辞することがあってはならない」と述べている。

しかし、トランプ大統領はコーン氏のこうした批判が気に入らなかったらしい。Washington Post(原文英語)などの報道によれば、この一件からコーン氏は政権内で冷遇されているという。

娘のイヴァンカ・トランプ氏が表現した通り「人種を気にしない」トランプ氏は、娘婿がユダヤ人であるとはいえ、コーン氏のこうした民族的感情を理解しないのだろう。イヴァンカ氏は大統領選挙中、以下のように父親を表現していた。

わたしの父は才能を重視します。豊富な知識や能力を持った人がいれば、父は決してそれを見落とすことはありません。父は肌の色で人を差別することなく、性別に対して中立(原文: He is colour-blind and gender-neutral)です。

トランプ政権内では、バノン氏など多くの人々が辞任に追いやられたが、今回のコーン氏の件はとりわけ投資家にとって意味することが大きい。何故ならば、コーン氏の冷遇が続けば、それはイエレン議長の再任の可能性が高まるということだからである。

金融市場への影響

コーン氏がFedの議長としてどう動くかは投資家にとって未知数だが、イエレン氏であれば良く知っている。彼女がこれまでどう行動してきたかは元より、リーマンショックにどう対応したかさえ、投資家は皆知っているからである。

イエレン議長は量的緩和で膨らんだ中央銀行のバランスシートを縮小したがっている。彼女は市場を動揺させることなく量的引き締めを開始することを望んでおり、そしてこれまでのところ成功している。彼女が再任されるならば、Fedは2018年以降もそうしてゆくだろう。この金融政策の大転換についてはBridgewaterのレイ・ダリオ氏が良く説明している。

では、ドルについてはどうなるか。前回の記事ではドルは横ばいか上昇のどちらかだと主張したが、イエレン議長が再任される場合は幾分か上昇のオッズが上がるだろう。筆者のドル相場に対する見方は以下の二つの記事に要約されている。

個人的にはプット・オプションを売っているので、横ばいでも上昇でもどちらでも利益となる。しかしコーン氏が辞任に追いやられ、市場が更にリスクオフに動き、ドルが下落することがあれば、オプションの売りをドルの純粋な買い持ちに変更することを検討しても良いかもしれない。