ガントラック氏: 株式市場の弱気相場はまだ続いている

昨年の株安を予想し的中させた債券投資家のガントラック氏がCNBC(原文英語)の記事で弱気相場が継続していることを主張している。その内容が投資家にとってなかなか重要なものであるのでここで紹介したい。

米国株は本当に世界最高値を取り戻したのか?

先ず、世間の認識では米国株は2018年10月に始まった世界同時株安の後、Fed(連邦準備制度)のパウエル議長が利上げの撤回と量的引き締めの段階的停止を決めてから反発し、昨年10月の高値を乗り越えて世界最高値を記録したということになっている。金融関係者が一般に米国株の指標として用いるS&P 500のチャートは次のようになっている。

しかしガントラック氏はこれに異議を唱えている。

市場はこの15ヶ月間どこにも行っていない。人々はこれを機関車がのろのろと前に進んでいるようなものだと思いたがっているが、NYSE総合指数を見てみるといい。NYSE総合指数は一番巨大な指数だから、一番重要だと思っている。

NYSE総合指数はニューヨーク証券取引所に上場する普通株すべてを含む指数であり、2000銘柄以上を包括している。S&P 500やダウ平均(30銘柄を含むに過ぎない)よりも市場全体を表す指数であると言える。そしてNYSE総合指数のチャートは次のようになっている。S&P 500と比べると面白いだろう。

ガントラック氏は次のように続けている。

NYSE総合指数は2018年1月に天井に達した後、10月にもその高値を奪回することなく、そして今回はその10月の高値にも達することが出来ないまま、また下落している。

この指摘は非常に興味深い事実を指している。米国株全体の天井は2018年10月ではなく、1月なのである。中国株など新興国市場だけが2018年初めに天井を付けたわけではなく、米国株も同じように一年半前に天井に達していたのである。

下落が続いているということが、それが今後も続くという保証になるわけではない。しかし投資家にとって重要な事実は、株式市場全体が下がっているにもかかわらず、指数に採用された一部の銘柄だけが上がり続けているという歪んだ構造はバブル末期に見られるものであり、そしてその歪みはパウエル議長が利上げを撤回した後もどうやら直ってはいないということである。もしそれが直っているならば、ここ数週間でS&P 500が史上最高値を奪回した時に、NYSE総合指数も昨年10月の高値を奪回していても良かったはずだからである。しかし指数と市場全体のねじれ構造はまだ続いている。

ここの読者は覚えているだろうが、わたしが昨年10月の世界同時株安を事前に予想した時に根拠の1つとして挙げたのは、日本株でも日経平均だけが上昇し、JASDAQなどの小型株指数は下落を続けていたことだった。以下の記事で説明している。

そしてそのねじれは今も続いている。数日前まで日経平均はいまだにTOPIXが大して上がらない状況下で上昇しており、TOPIXと比較して日経平均がどれだけ上がっているかを示すNT倍率はパウエル発言後に高騰している。そしてその大部分はファーストリテイリング1銘柄の上昇に依存しているのである。指数だけが持ち上げられ、市場全体は下落している状況は、市場全体に資金が不足していることを示している。

パウエル議長が利上げを停止し、量的引き締めを秋には停止すると宣言したとき、世界同時株安を食い止めるために重要なのはそれで市場からの資金流出を食い止めることが出来るかどうかだった。投資家はその答えを徐々に手にしているようである。