全般的に割高な米国株、2015年からでも買える銘柄は何か?

サブプライム・ローン危機により世界の株式市場が暴落してから5年間、米国の経済はほかの先進国に先立って回復し、米国株はこれまで著しい上昇を見せてきた。その上昇はかなりの部分、FRB(連邦準備制度)の量的緩和に支えられていて、少し前までは投資家もそれを自覚していたはずなのだが、最近ではそれをすっかり忘れてしまったようである。

したがって、上記の記事では著名ファンドマネージャーがどのような銘柄を空売りしているのかを紹介した。しかし、流動性縮小という需給要因を別にすれば、米国の更なる景気回復は原油安にも助けられ、疑いのないものになりつつある。では、既に上昇してしまった米国の株式市場ではどのような銘柄を買うことができるだろうか? 下記に有望なものをいくつか紹介したい。

まずは原油安で真っ先に買われる航空株から、米国でビジネスを展開する格安航空会社のJetBlueである。原油安が航空会社のコストを削減となることは明らかだが、なかでもJetBlueはやや過小評価されている。2015年の予想1株あたり利益は1.43であり、原油安が続いていることと、JetBlueが毎年10%程度売上を伸ばしてきていることを考えれば、$15以下で取引されている現在でもやや割安と言えるが、可能であれば$11-$13程度のレンジで安値を拾いたいものである。

経営破綻したエルピーダメモリを買収したことで日本でも話題になったMicronは、デイヴィッド・アインホーン氏のグリーンライト・キャピタルの持つ米国株の最大ポジションであるが、最近のハイテク株軟調に押され、P/Eが9台で取引されている。予想1株あたり純利益は$3.65であり、$29を下回る現在の株価でも十分魅力的である。$25-$27程度のレンジで買い集めることができればより理想的か。

個人的にはハードディスクなどの記憶装置は将来的にはすべてSSDなどの半導体メモリに置き換わると予想している。その前提に基づけば、Micronの株価は著しく過小評価されている。セクター全体としてやや過大評価されているハイテク株は、2015年の株式市場で波乱のある可能性があるが、そのようなボラティリティ上昇をほかのポジションで上手くヘッジしながら、優良株への投資を維持してゆきたいと思う。

最後に、年金や生命保険などを扱うLincoln Nationalを取り上げたい。先ずは保険株セクターそのものから分析する。

米国の保険株を押し上げる要因は2つある。1つは量的緩和の終了にともなう長期金利の上昇(による運用益の増加)であり、もう1つは原油安とドル高により消費者の資金繰りに余裕が生まれていることである。米国の長期金利はECB(欧州中央銀行)の低金利政策によっていまだ低位に抑えられているが、FRBの利上げを控え、上昇は不可避と見るべきだろう。また、消費者の所得と被保険率が綺麗に比例することについては下記で取り上げた。

国内需要の回復により金融引き締めに向かっている英国の保険会社も似た恩恵を受けるだろうが、ポンドはドルよりも弱く、また失業率の下げ止まっていないユーロ圏の顧客も多く、そしてP/Eも割高である。米国の他の保険会社に関しては、Metlife (NYSE:MET、Google Finance)やAIG (NYSE:AIG、Google Finance)など、世界規模で事業展開する企業が多く、米国の保険業界に有利な昨今の経済要因を考えれば、主に米国の顧客を扱うLincolnの方が投資対象として魅力的であると考えるべきだろう。

また、保険株は金利の上昇(債券の下落)と連動する傾向があるため、Lincolnへの投資は、欧州不動産株の買いやユーロの空売りなど、ECBの量的緩和に追随するポジションのリスクをヘッジする効果がある。逆に、そういったポジションを持たない投資家は、ECBの量的緩和によって保険株全体が下落するリスクを考えなければならない。このようなリスク管理の考え方については下記で説明した。

いくつか銘柄を紹介したが、このような場面では個別株の選択よりも全体のバランスが重要である。そしてそういった場面では、グローバル・マクロ戦略の投資家はほかの投資家よりも上手くリスクを管理することができる。投資家はこれを機会に、自分のポートフォリオがどれだけ金利や原油価格、株価指数などに連動しているのか、それらが上下すれば自分の資産全体はどうなるのか、もう一度見直してみるのが良いだろう。