OPEC会合: サウジアラビア減産強行で原油価格上昇

サウジアラビアを中心とするOPECが5月25日にウィーンで開かれる会合で原油減産の延長を決定するとの思惑から原油価格が上昇している。

アメリカのシェール革命による産出量増加が世界の原油供給過剰を引き起こし、原油価格が暴落したため、OPECなど産油国は2017年1月から6月まで産出量を減らすことで合意していたが、サウジアラビアとロシア(非OPEC)はこれを9ヶ月延長し、2018年3月までとする方針を確認した(日経)。

一方でイランは「会合でのどんな決定にも従う」(ブルームバーグ)としながらも「サウジアラビアは原油価格をつり上げようとしている」(ロイター)と、政敵であるイスラム教スンニ派のサウジアラビア(イランはシーア派)に対して厳しい見方を示している。

サウジアラビアの事情

サウジアラビアは確かに原油価格を吊り上げようとしている。その理由は、2018年に控える国営産油企業サウジアラムコのIPOである。

原油安で資金のなくなったサウジアラビアは、虎の子の国営産油企業の株式を売り出すことで外貨を稼ごうとしており、エネルギー企業の株式を高値で売れるかどうかはその時の原油価格に懸かっているため、これから2018年にかけて原油価格を吊り上げる必要があるのである。

一時40ドル台まで下落していた原油価格は、OPECを主導しているサウジアラビアの目論見により短期的に上昇している。

ここまでの動きは、少し前の原油価格予想記事で書いたシナリオそのものである。

サウジアラビアはこのIPOでサウジアラムコの株式を高値で売るために、OPECを通して減産などを仄めかし、原油価格を一時的にでも上昇させようとするだろう。

しかし短期的に50ドル台まで上昇した原油価格が、決定された減産によって更なる上げ相場を迎えるかと言えば、少なくとも長期的にはそうはならない。原油価格が上昇すればOPECの合意とは無関係に米国のシェール企業が産出量を増やし、OPECなどが減産した分を補ってしまうだろう。

原油価格は、ファンダメンタルズ的にはやはり60ドル程度が上限であり、サウジアラビアが今後サウジアラムコIPOのためによほど無理を通したとしても、一時的に60ドルを超えてゆく程度であり、70ドルに到達することはないというのが、2018年までのわたしの原油価格予想である。

逆に下値を試した場合も、既に30ドルが持続不可能であることは2016年に示されているので、精々40ドル程度だろうということである。原油価格の予想については、シェール企業の財務諸表などの例を引きながら以下の記事で詳しく解説してあるので、そちらを参考にしてほしい。

原油トレード

トランプ相場でアメリカの長期金利の上限を予想した時のように、レンジの予想を当てること自体はさほど難しくない。

もし2.7%という長期金利の適正値が正しいとすれば、金利が2.7%近辺になった辺りで10年物国債を買うことが正当化されるからである。

しかし問題は、レンジ予想で利益を得るためにはオプションを取引することが必要であり、日本の個人投資家の読者には原油や国債のオプションを取引することは難しいだろうということである。

しかしオプションを使うことが最良の解であれば、それを承知の上でもやはりそのトレードについてここでも書くべきだろう。上記の原油価格のレンジ予想に従ってトレードするためには、コール・オプションの売り(原油価格が一定以上に上がらなければ利益が出る)とプット・オプションの売り(一定以下に下がらなければ利益が出る)を同時に行う必要がある。

2018年中は原油価格が一時的に上昇する可能性があるため、例えば2019年1月に期限が来る原油先物のオプションを見れば、52ドル以上に上がらなければ利益となるコールの価格が7.36ドル、52ドル以下に下がらなければ利益となるプットの価格が6.5ドルである。

これを両方売ってそのポジションを期限まで持てば、13ドル程度が無条件で手に入り、そしてその時の原油価格と52ドルとの差がそこから差し引かれるということになる。例えばその時の原油価格が54ドルならば、13ドルから2ドルを引いて11ドルが利益となる。この詳細な説明についてはオプションについて書いた記事を参考にしてほしい。

しかし重要なのは、結果としてこのトレードは原油価格が52ドルからプラスマイナス13ドルの範囲、つまり39ドルから65ドルのレンジに収まる場合、利益の出るトレードになるということである。ここに書いた予想にほぼ適合するポジションである。

また、万一一時的にこのレンジから外れることがあれば、むしろそれはチャンスと捉えるべきである。原油価格の行き過ぎは、上下どちらの方向であったとしても投資機会を生む。原油価格が40ドルを下回れば、産油国ロシアの市場は優良な資産が大安売りとなるだろう。

逆に上昇が行き過ぎる場合、破綻寸前の米国シェール企業が発行するジャンク債に過度な楽観が見られることになるだろう。空売りの絶好の機会である。

つまり、このトレードはレンジに入れば利益となり、入らずとも別の投資機会を生む、どちらに転んでも構わないトレードということになる。投資を行なってそれが成功するように祈るのは二流の投資家のやることであり、プロはどちらに転んでも利益となるように未来のシナリオを精査し戦略を考えるものである。トランプ相場は後退したが、原油市場にはそういう機会が存在している。