Form 13F: 世界最大のヘッジファンド、新興国株式を買い増し

機関投資家のポジションを開示するForm 13Fである。ジョージ・ソロス氏のポートフォリオについては既に伝えてあるが、今回はレイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのポートフォリオを紹介したい。

ダリオ氏の相場観

ダリオ氏のこれまでの相場観を復習しておこう。先ず、2016年11月にトランプ氏がアメリカ大統領選挙で勝利すると、米国株は上昇に転じたが、ダボス会議でインタビューに応じたダリオ氏は、株価上昇をトランプ政権の経済政策を織り込む論理的な動きと評していた。

トランプ政権は基本的に既知の政策を行おうとしているだけだ。彼らは税率を変えると言っており、市場はそれを織り込もうとしているのだから、その動きは論理的だ。

しかしながら、トランプ大統領と米国議会のコミュニケーションが上手く行かず、経済政策の実現が危ぶまれると、ダリオ氏は政治的リスクの重大さを指摘し始めた。以下の記事で説明したが、ダリオ氏は経済政策が実現しないリスクの他に、世界的なリベラルと保守派の政治的対立が第二次世界大戦直前の状況と似ているとし、警鐘を鳴らしていた。

ダリオ氏のポートフォリオ

今回の開示は、そのダリオ氏の6月末時点でのポートフォリオである。

前回の3月末時点の開示で、ダリオ氏は米国株よりも新興国株にシフトする動きを見せていた。

今回の開示では、その動きに拍車が掛かっている。新興国株を買い増ししているのである。

ダリオ氏は米国市場に上場する新興国株式ETFに投資することで新興国に投資している。Bridgewaterの保有するETFは、Vanguard Emerging Markets ETF (NYSEARCA:VWO)とiShares MSCI Emerging Markets ETF (NYSEARCA:EEM)の二つであるが、そのポジションの金額は3月末から6月末で次のように変化している。

  • Vanguard: 29億ドル – > 32億ドル
  • iShares: 15億ドル -> 23億ドル

Vanguardのチャートは以下である。

iSharesは以下。

両方とも7月の上旬から爆発的に上昇している。ダリオ氏が6月末から今まで保有し続けているとすれば、取っているポジションの大きさから考えても大成功と言うべきだろう。

新興国株式の上昇

ダリオ氏が新興国株式に賭けた理由は、恐らくはアメリカにおける実質金利低下を予想したためだろう。トランプ相場における株高と金利上昇が滞ることでアメリカの金利が低下し、米国株に集中していた資金が海外にも流れ始める。アメリカの金利が低ければ、ドルの金利を求めて新興国通貨から資金が引き上げられることもないので、新興国市場にとっては快適な市場環境となるわけである。事実、アメリカの実質金利に反相関の関係にあるドル建て金価格は上昇(つまり金利低下)している。

また、新興国経済の好調については、建設などに使われる銅の価格の好調を理由に、債券投資家のガントラック氏が指摘していた通りである。

銅価格/金価格比率の上昇は、インフレをもたらす何かが世界経済で進行中だということを示唆している可能性が高い。

但し、ダリオ氏の新興国株の買い増しは6月末の話であり、その後の記事でリスクオフを宣言したダリオ氏が、新興国市場から引き上げたかどうかは定かではない。米国市場におけるリスクオフは、今の状況では金利低下を通して新興国株にプラスになるという点から、ダリオ氏は新興国株をホールドしているかもしれないし、そうでないかもしれない。しかし確かなのは、現状で米国株に強気な著名投資家がほとんど居ないという事実である。