フォン・グライアーツ氏: 株価暴落でも暴騰している金価格は上がり続ける

Von Greyerzのエゴン・フォン・グライアーツ氏が自社配信動画で株価下落と金相場の関係について語っている。

株安と金価格上昇

米国株を中心とする株式市場の下落の裏で、ゴールドの上昇が止まらない。金価格のチャートは次のようになっている。

このゴールドの急上昇は、株式市場の暴落と無関係ではない。同じくVon Greyerzのジョニー・ヘイコック氏が事前に予想していた、株式や国債からゴールドへの資金逃避が起きているからである。

2つの異常事態

しかし株価の下落によって国債からゴールドへの資金逃避が起きていることは、二重の意味で異常である。何故ならば、2008年のリーマンショックでもそうだったように、株式の下落相場ではゴールドも下がり、国債は買われるのが普通だからである。

株安で米国債が下落していることが異常事態であるということについては、既に以下の記事で詳しく説明している。

だから今回の記事ではもう1つの異常事態、金価格の上昇について書いてみたい。

株安と金相場

さて、フォン・グライアーツ氏が持ち出しているのは、やはり2008年のリーマンショックの時にゴールドがどのように動いたかである。

フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

誰もが2008年の金価格の下落を恐れた。それはかなり大きな下落だった。

2008年に世界中の市場、特に株式市場が下落したとき、金価格も確か6ヶ月ほどだったと思うが同じように下がった。

ゴールドは安全資産だと言われているが、株安の状況下では普通は下落する。

その理論的理屈については以下の記事で書いておいたので、ここでは繰り返さない。問題は、2025年の株安ではそうはなっていないということである。

最初に書いた通り、今回の株価下落では金価格は上がっている。フォン・グライアーツ氏は次のように述べている。

だが今回は違う。

株価が落ちても金価格は下がらない。世界情勢が当時とは違うため、ゴールドも違う状況に置かれている。

金価格とアメリカの債務問題

当時と今ではどう状況が違うのか。フォン・グライアーツ氏は次のように続ける。

2008年にはアメリカの政府債務は恐らく9兆ドル程度だったと思う。今ではどうだ? 36兆ドルを超えて37兆ドルに達しようとしている。

そして今後数年で財政赤字は1兆ドルには留まらないだろう。2兆ドル、3兆ドル、4兆ドルになり、政府債務は指数関数的に増殖する。

アメリカではコロナ後の金利上昇で、膨大な政府債務に多額の利払いが生じており、それを国債の新規発行で返し続ける限り、米国債とその利払いはねずみ算式に増えてゆく。

特に今年は満期となる米国債が多く、金利が1%以下だった頃に発行されていた国債が金利4%の新たな国債で置き換えられる。

トランプ政権と財政赤字

トランプ政権がイーロン・マスク氏のDOGE(政府効率化省)による支出削減と関税政策にこだわっていたのは、まさにそれが理由である。それらはともに財政赤字を減らすための政策である。

だが財政赤字こそが長年株価を支えていたのだから、そのばら撒きを抑制すれば株価は下がる。そして今回、株価とともにドルも下がっているということが、トランプ政権にとって致命的だった。

ドルの下落に耐えられなくなったアメリカ国外の米国債の保有者が、米国債を損切りし始めたからである。それが米国債を下落させ、金利上昇をもたらし、トランプ政権は関税の延期を余儀なくされた。

債務負担の減少のために財政赤字を削減していたのに、赤字削減が金利上昇に繋がり利払いが増えてしまっては本末転倒だからである。

詰んでいるドル建て資産

ということで、トランプ政権は財政赤字を増やしても減らしても借金が増えてゆく状況に追い詰められている。米国債は完全に詰んでいるのである。

それが金相場とどのような関係があるか? 1945年に第2次世界大戦が終わって以来、世界中の国々がドルと米国債を預金の代わりにしてきた。それがドルが基軸通貨であるということの意味である。

そのドルと米国債が詰んでいれば、米国債の保有者はどうするか? 米国債を投げ売りしてゴールドを買うしかない。レイ・ダリオ氏が早くも2022年から予想してきたシナリオである。

つまり、ドルと米国債と米国株が下がり、その資金がゴールドに集中しているのである。それが金価格の怒涛の上昇を生み出している。

結論

トランプ政権の目指す財政赤字の縮小でさえ米国債の下落を止められないどころか、米国債を下落させてしまうのであれば、最終的にはアメリカは中央銀行の紙幣印刷で米国債を救済するしかない。

だがそのインフレ政策がゴールドを更に押し上げるだろう。フォン・グライアーツ氏は次のように言っている。

実体経済は減速し、税収は大きく減少する。銀行などがどんどん救済される。これまでにない規模で紙幣印刷が行われ、金利が上昇し、財政赤字は増え、債務は増加する。

このシナリオでは金価格は下がらない。

去年後半からここではずっと何度もゴールドについての記事を書き続けてきたが、この上昇でその理由が分かってもらえただろうか。

その背景にあるのは、レイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想している基軸通貨ドルの終わりである。

ニュースを騒がせている関税の話などどうでも良いのである。些末なことは無視し、もっと重要な長期の動きに注意を向けなければ、相場で大火傷することになるだろう。


世界秩序の変化に対処するための原則