引き続き、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のブログ記事を紹介する。
今回は、ダリオ氏には珍しくドルの見通しについてはっきりと予想を述べている部分を紹介したい。
アメリカの財政赤字
ダリオ氏は、長らく米国政府が財政赤字を減少させることを求めていた。コロナ後の金利上昇で米国債の利払いが財政赤字の半分に達しており、このままでは利払いを賄うための米国債の発行が膨大な量になってゆく。
それでダリオ氏はわざわざワシントンDCにまで行って与野党の重鎮たちと財政問題について議論した。そしてどうなったかと言えば、財政赤字の解決をほぼ諦めた。
結局、ダリオ氏が話した感触では、政治家たちは財政赤字の問題を解決しそうにないという。
米国債の危機とドルの価値
米国債の大量発行が止まらず、米国債の買い手の方が同じように増えないのであれば、米国債はいずれかのタイミングで買い手不足に陥る。その兆候は4月の株安の時に見られている。
買い手不足が悪化したとき、アメリカはどうするのか。ダリオ氏の予想では、日銀が日本国債を買い支えたように、中央銀行が米国債を買い支えるしかない。だがそれは、日本でもそうなったように、通貨を犠牲にして国債を救済する道である。
今回のブログ記事でダリオ氏は次のように述べている。
金融政策の節度を保つことは、財政政策の節度を保つことと同じように不人気な政策だ。
ドルは風前の灯火なのか。著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、ドル以前に基軸通貨だった大英帝国やオランダ海上帝国の通貨がどのように衰退したのかを研究したダリオ氏は、次のように続けている。
通貨の価値は守られるだろうか? 現在の状況と歴史の教訓から考えれば、通貨の価値は通貨安とインフレの古典的問題が激化するまで、あるいは激化した後でさえ守られないだろうことは明らかだと思う。
ダリオ氏の著書によれば、過去の基軸通貨はいずれも債務過多を解消するための通貨安とインフレで衰退した。
ダリオ氏は頭ではドルも同じ運命を避けられないと考えながらも、諦めずに財政赤字を解決すればそれは避けられると主張し続けてきたが、ワシントンDCでの会談でダリオ氏はついに諦めたようである。
ドル安が止まるとき
ドルはどうなるのか。ドルの下落が避けられないとして、その下落はいつ止まるのだろうか。
ダリオ氏が持ち出すのは、1970年代の物価高騰の時代のことである。
1970年代の物価高騰は、インフレにもかかわらずFed(連邦準備制度)が金融引き締めを嫌がったことで起きた(今のどこかの国を思い出させる)が、それは最終的にインフレ打倒のために容赦ない金融引き締めを行なったポール・ボルカー議長によって終わりを迎えた。
ダリオ氏は、ドルの下落が終わるタイミングは、現代のボルカー氏が現れる時だろうと予想している。ダリオ氏は次のように述べている。
1970年から82年までのサイクルは典型的な例だ。だからいつか遠い未来に同じような金融引き締めは起きるだろうが、それがすぐ来ないことはほとんど確実だ。
だがトランプ大統領はボルカー氏にはなりそうにない。
だからダリオ氏は、ドルの先行きに対して珍しくはっきりとした意見を表明している。
だから、投資家は通貨安(ドルの下落や、実質金利の低下など)に賭け続けるべきだと思う。
結論
個人的な意見では、ドルの下落は今の金融市場で一番美味しいトレードである。
だが、ドルが他の通貨に対して下落するのかどうかは、他の通貨がどれだけの問題を抱えているかによるだろう。
だから、ダリオ氏を含め、ドルの状況を理解している投資家は貴金属を買っているのである。ドルから逃避する資金がゴールドなどに流れている。
ダリオ氏は、『世界秩序の変化に対処するための原則』に自分で書いたドル下落シナリオ(アメリカ版アベノミクスシナリオ)に抗おうとしてきたが、結局ダリオ氏の予想は正しいということになりそうだ。