世界最大のヘッジファンド: 中国恒大集団の2兆元債務は対処可能

引き続き中国最大級の不動産ディベロッパー、恒大集団のデフォルト危機である。今回はこの問題に対するBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏の見解を紹介しよう。

著名投資家の反応

金融業界ではしばらくニュースとなっているこの債務危機だが、最初に問題を指摘したジョージ・ソロス氏を除いて著名ファンドマネージャーらはこれまで奇妙なまでに沈黙を貫いてきた。

ジェフリー・ガンドラック氏など最近インタビューを受けた著名投資家もいたのだが、何故かこの問題については言及していない。

その沈黙を破ったのは世界最大のヘッジファンドを運用するダリオ氏である。ダリオ氏はこれまで中国投資を推してきたこともあり、言及せざるを得なくなったのだろう。

それでどういう回答になっているかと言えば、総じて楽観的なコメントとなっている。ダリオ氏は次のように説明する。

これは中国版リーマンショックではない。

リーマンショックでは影響が金融システム全体に広がり、構造的なダメージが発生した。それは財務省が救済に動き、中央銀行が量的緩和を開始するまで続いた。

恒大集団の問題はそのようにシステム全体を揺るがすものではない。

当然だ。しかしそのコメントに何か意味があるだろうか。

復習しておけば、リーマンショックとはアメリカの住宅バブルに乗って質の低い住宅ローンが証券化されてまとめ売りされ、リスクが平均化されたことであたかも質の高い証券になったかのように見せかけられたものが世界中で売られたことによってアメリカの不動産バブル崩壊が世界中に波及したものである。

恒大集団においても理財商品という金融商品が売られているが、あくまで中国国内のことである。

一方で今回の問題点は恒大集団の借金が中国のGDPの2%に相当し、もしデフォルトすれば恒大集団は返せる分の借金を返すためにGDP1%分以上と推測される手持ちの不動産を投げ売りしなければならず、その場合中国の長年の不動産バブルがどうなるのか、そして中国人が資産形成の支柱として頼りにしている不動産が軒並み暴落すれば中国の消費と経済成長はどうなるのか、ということである。

だからダリオ氏の言う通り、恒大集団のデフォルト危機はリーマンショックとは別の経済危機である。しかしだから何だと言うのだろうか。リーマンショックではなくブラックマンデーだったら良いのだろうか。今回のダリオ氏の議論はどうも歯切れが悪い。

3兆元債務は対処可能

ダリオ氏は続けて恒大集団の借金について次のように述べている。

恒大集団の借金は3,000億ドル(訳注:2兆元)で、それなら対処可能だ。

どの時代のどの国にも当てはまることだが、債務が自国通貨で発行されている場合、債務危機は対処可能だ。

ダリオ氏はGDP2%分の莫大な債務をさらりと対処可能だと言う。金融に詳しくない読者のために付け加えると、ダリオ氏は政府による救済や量的緩和の話をしているのである。

債務が自国通貨で発行されている場合、何故それは対処可能なのか? 中央銀行が紙幣を印刷して政府が破綻企業を救済してしまえるからである。

しかしこれはあまりにダリオ氏らしくない回答ではないか? ダリオ氏が中国投資を推していたのは、アメリカがそれを行ったためにドルの価値が下がっているからという話だったはずである。

これまでは「量的緩和と債務膨張でドルが下がるから人民元建ての資産を買え」と言っていた。そして今は中国に量的緩和と政府債務膨張を勧めている。話がおかしくないだろうか? そして今回、ダリオ氏は人民元についての話を一切していない。

人民元の下落懸念

しかしここには投資家にとって重要な論点がある。以下の記事で書いた通り、中国政府は今のところ恒大集団を救済しない方針のようである。

しかし恒大集団の正式なデフォルトまではまだ日数がある。その間に金融市場の下落が大きくなれば、中国政府も翻意して恒大集団を救済しようとするかもしれない。ダリオ氏は個人的に中国高官の知り合いがいるから、救済しなければ大事になると個人的に彼らに忠告することもできる。

恒大集団の破綻に賭ける投資家としては、このシナリオは考えておかなければならない。だから以下の記事では空売り対象銘柄に人民元を入れておいたのである。

政府による救済で恒大集団や中国の不動産セクター、そして株式市場は救えるかもしれない。しかし利下げや紙幣印刷で中国政府が救済に走る場合、人民元は下落せざるを得ない。万一の場合にもリスクを少なくするための通貨売りなのである。

結論

ようやく口を開いたダリオ氏だが、どうも核心を避けたようなインタビューである。恒大集団の問題の核心とは何だっただろうか? 以前の記事に次のように書いたことを思い出したい。

デフォルト確定までまだ時間はあるが、今月中の破綻もやはり有り得るだろう。

そうなれば恒大集団は中国のGDP1%規模の手持ちの不動産をすべて投げ売りして借金を返済することを強いられる。恒大集団が破綻しても大きな影響はないだろうと呑気に構えている投資家も多いが、何十年もバブルを続けてきた中国の不動産市場にGDP1%の売り圧力がかかればどうなるのかについては誰も説明していない。

そしてダリオ氏もその点については一切触れなかった。更に重要な人民元の行方についても触れていない。

ファンドマネージャーのこういう反応は何を示すのか、資産運用業界の人間であれば大体推測することが出来る。恒大集団のデフォルト危機については自社のリサーチチームが目下必死にリサーチ中であり、まだ結論が出ていないので何も言うことが出来ないのである。

しかし彼らが必死にリサーチ中であるという事実自体がこの問題の規模を物語っている。特にダリオ氏は大規模な中国関連ポジションを抱えているから、それはもう必死だろう。しかしわたしやソロス氏に言わせれば彼らは遅いのである。