世界最大のヘッジファンド: ウクライナ侵攻でプーチン大統領失脚の可能性

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログでロシアのウクライナ侵攻と対ロシア制裁のロシア経済に対するダメージについて語っている。

ウクライナ侵攻と対露制裁

ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、これまでも報じてきたように、欧米諸国はロシアに対する経済制裁を行なっている。その中には「アメリカにあるプーチン大統領の銀行口座」というあるわけがないものの凍結も含まれている。

しかし一番重要なのはロシアのいくつかの銀行のSWIFTからの排除だろう。これで指定されたロシアの銀行からの国外送金がかなり難しくなる。

こうした制裁についてダリオ氏は次のように述べている。

大きく拡大された制裁が最近発表されたが、それはNATO諸国に大したコストなしにロシア経済に甚大なダメージを与えるだろう。この紛争が長引いた場合には特にそうだ。

ロシア人の感じる経済的なダメージはあまりに大きく、プーチンの政権が危ぶまれるか、彼が失脚するレベルまで彼の政策に対する国内の反対が大きくならなければ驚きだろう。

実際には、ロシアの消費者に直接のダメージを与えるのはロシアの通貨ルーブルの暴落だろう。ドルルーブルのチャートは次のように推移している。上方向がドル高ルーブル安である。

自国通貨が暴落すれば輸入品の価格が高騰する。一方で輸出企業にはプラスになるが、それは暴落しているロシア株の価格には織り込まれていないようだ。だがロシア株については後でまた言及する。

追い込まれたロシア

また、ダリオ氏は経済制裁によって追い込まれたロシアが欧米相手の戦争に突入する可能性を懸念している。

制裁強化の威力は列強同士の戦争を心配すべき古典的な赤信号のレベルに達している。

筆者が思い出すのは第2次世界大戦前、原油などの禁輸によって追い詰められた日本が戦争に追い込まれていった図式である。そしてジム・ロジャーズ氏によれば、当時のようにワシントン内部には戦争を望んでいる人物がいる。

ビクトリア・ヌーランドという名前の官僚の女性がウクライナにおける2014年のクーデターを支援し、今の反ロシアかつ親ビクトリア・ヌーランドのウクライナ政権を打ち立て、それが今まで尾を引いている。

そして彼女は今また争いを煽っているようだ。

歴史上の大国同士の争いを研究しているダリオ氏だから、大戦時の日本のことも思い浮かべているだろう。

また、ダリオ氏はこのロシアのウクライナ侵攻を「ロシアのウクライナ侵攻」ではなく「ロシア・ウクライナ・NATO紛争」と呼んでいる。

最後に入っているNATOが実際には今回の紛争の主役であり、ウクライナは巻き込まれただけだという筆者やジム・ロジャーズ氏の見方に同意をするものだろう。ダリオ氏も同じ見方であることに驚きはない。大手メディアの書いた出鱈目に騙されずに状況を見れば当然そうした見方になる。

前にも書いたがロシアは冷戦後、ロシアを敵国とするNATOが東に拡大しないというアメリカの約束を受け入れてヨーロッパから手を引いた。だが当然ながら約束など守らないアメリカはNATOを拡大し、ロシア国境沿いのウクライナまで加盟希望国として認めるに至っている。そして他のロシア近隣のNATO加盟国には対ロシア用のミサイルが配備されている。

この状況は世界大戦時、欧米列強が中国まで迫ってきたために中国に出ていかなければならなかった日本の状況に酷似している。同じようにロシアはNATOによってウクライナに引きずり出されたのである。

欧米からすれば引き金を引いたのは日本(あるいはロシア)だからそちらが悪いという理屈だろう。だが実際には誰のせいで戦争は起こっているのだろう? 読者も一度考えてみてもらいたい。

対ロシア制裁は有効か

対露制裁に話を戻そう。ダリオ氏は制裁のダメージは深刻だと言う一方で、中国がロシアを助ければ効果は減ると主張する。

そもそもSWIFTは大手銀行で国際送金が出来ないのは不便だろうが、まだ排除されていない他のロシアの銀行で送金すれば良いだけの話であり、ロシアの全銀行を排除しなければ意味はないというのは以前も書いた。

そして他の迂回方法としては、ダリオ氏の言うように中国を介して送金をするケースだろう。ダリオ氏は次のように続ける。

中国とロシアは多くの分野で非常に協力しており、それが制裁の効果を最小化する上で大きな助けになりうる。

特に興味深いのは中国の通貨と精算システムに関するものである(最重要なのはデジタル人民元とアメリカのSWIFT支配による制裁の軽減だ)。

また、欧米がまだ行なっていない制裁は、ヨーロッパがロシア産の原油や天然ガスを買うのを止めるというものである。これはロシアに大ダメージになるが、ただでさえエネルギー資源が足らずインフレになっているヨーロッパにも大ダメージになるので行われていない。

だがこれが行われた場合にも中国が代わりにロシアから買い上げることで制裁の効果はかなり減るだろう。だからこの件でロシアの生殺与奪を握っているのは中国であり、実は中国が一番得をしているのではないかと筆者は考えている。

いずれにせよ欧米が欧米の決済システムやドルなどを武器として使い始めれば、そうした振る舞いを懸念する国々はSWIFTやドルから離れてゆく。ダリオ氏は次のように述べている。

いずれにせよ中国がどうするかを注視している。何故ならば、それは急速に変化している世界秩序の今後に対して大きな影響を持つからだ。

これは単純にロシアの運命は中国によって決まるというだけの意味ではないだろう。ダリオ氏は利用国が減少するSWIFTやドルの代わりに中国の決済システムや人民元が存在感を増してゆくということを示唆しているのである。

結論

制裁に関して言えば、筆者の予想では中国は大いに手を貸すだろう。中国も当然ながら欧米のこのような振る舞いを好意的に思っておらず、経済制裁に対する助け合いはお互い様だと思っているはずである。また、ロシア産の原油や天然ガスを安値で買える機会を、いまだに戦争を好んでいる欧米のために逃す理由は中国には何1つ無いだろう。

ロシア株はまだ取引停止状態だが、アメリカに上場しているロシア株ETFは売買されており、下落を続けている。

元の値段の1/5である。この価格は文字通りロシア経済が消えてなくなることを織り込んでいる。筆者は以下の記事における推奨通り、ドルコスト平均法で仕込み続けている。

前にも述べたように、ロシア株に対する脅威は戦争状態そのものではなく、いくつかの銀行がSWIFTから排除されたこととルーブル暴落対策で金利が20%に上げられたことである。

よってその2つの影響を織り込んだ価格が現在の価格よりも高ければ、目先の価格変動に惑わされない投資家としては買えるという判断になる。

しかしこれはなかなか面白いゲームとなってきた。現在ロシア株を投げ売りしている人々によれば、ロシアの主要な輸出品であるエネルギー資源や鉱物は軒並み暴騰しているにもかかわらず、ロシア経済は今後消えてなくなるという。

それが1ヶ月後、半年後、1年後に現実のものとなれば、売り方の勝ちである。そうならなければ、筆者の勝ちとなる。

少し前に原油をマイナス30ドルで買ったカール・アイカーン氏のことを書いたが、実際にこういう状況が起こってみれば、買いを行える人はほとんど稀だろう。

だがそれこそが投資家の利益の源泉である。投資家のリターンとは、程度の差こそあれ、他人が動揺する状況で合理的にリサーチし冷静に判断し、市場価格を正しい方向に導いたことに対する対価である。逆に、間違えば損失となる。それが投資である。

では特に何もリサーチせず、何の苦労もなく、金融市場に何の知見をもたらさずにただインデックスを買うことによって人は利益を得られるのだろうか? それが現在の多くの日本人にとってのテーマである。

筆者は自分のゲームから結果を学び、彼らは彼ら自身のゲームから、今年中、もう少し後に結果を学ぶだろう。