世界最大のヘッジファンド、アメリカ経済がもう手遅れであることを認める

引き続きYahoo! Financeによる世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のインタビューである。今回はインフレと利上げについて語っている部分を取り上げたい。

利上げと株式市場

アメリカでは物価が高騰しており、Fed(連邦準備制度)は今年かなりの速度での利上げを行おうとしている。

見通しでは政策金利は今年中に2%以上の水準になるという。だがダリオ氏はこの金利見通しについて次のように述べている。

7回の利上げとは何と多いんだと皆が言っているのを見ると笑ってしまう。金利を2%か何かに上げたとして、それは確かに資本市場を苦しめ、株式の保有者にとって難しいことになり始めるだろう。

債券や預金のリターンが上がり、資金が引き締まり、リスク資産など他のものの魅力を減らしてしまう。ハイテク株などキャッシュフローの想定期間が長いものは特にそうだ。

金利が高くなれば、上下動の激しい株式を保有するリスクを取らなくとも国債を保有するだけである程度のリターンが得られてしまう。

例えば今後の利上げを織り込んで2年物国債の金利はほとんど2.6%に達している。

国債を2年保有していれば2.6%のリターンが得られるということである。

一方の米国株は金融引き締めでぐらついており、2年で果たして同じリターンを達成できるだろうか。

これが株式の投資家が直面している問題である。2.6%の2年物国債は既に株価と実体経済に悪影響を及ぼしつつあり、以下の記事で書いたように今後の悪化は債券市場では既に織り込まれている。

利上げは十分か

一方でダリオ氏は金利が2%に上がるだけではインフレ抑制には不足だという。彼は次のように続ける。

だがそれでも金利は2%か2%を少し上回る程度で、インフレ率はそれよりもかなり高い7%だ。長期的には5%くらいに収まるだろうか。

そうすると、2%の金利があっても実質的には(債券や預金の保持者は)インフレに対して資産を失ってゆくことになる。

それで人々は債券や預金から離れ、インフレをヘッジするために貴金属や農作物などのコモディティに投資するようになる。ものが買われるのでインフレは止まらない。それが前回の話である。

だが中央銀行はインフレ抑制のために十分な利上げを行うことができない。ダリオ氏は次のように続ける。

Fedがインフレに対応するために十分な引き締めを行えば、株価と実体経済が沈んでしまう。

だからこれから1年でFedはかなり難しい立ち位置に置かれることになる。インフレ率はまだまだ高く、それが市場と経済にのしかかっている。

結論

どうすれば良いのか? ダリオ氏はそう聞かれて絶望的な答えを返している。

中央銀行はますます難しい選択に迫られており、この状況はスタグフレーションをもたらすだろう。

インフレを抑制したいが、インフレが抑制できるほど金利が高いと経済が死んでしまう。

中央銀行に何が出来るか? 何も出来ない。彼らは既にその状態に置かれている。

中央銀行が対処しなければならないこの問題は彼らの処理能力を完全に超えている。

アメリカ人にはよくあることだが、彼らは出来る限り楽観的であろうとする。経済学者ラリー・サマーズ氏との対談の時にはダリオ氏はこの状況に警鐘を鳴らしながらも「だがわたしたちは両方間違っているかもしれない」とスタグフレーション回避に含みを持たせた。

だが今回はここまではっきり言ってしまった。やはりどう考えてもこの状況では物価高騰か株価暴落のどちらかは回避できないからである。

聞き手は絶望的な顔をしながらダリオ氏に恐る恐るソフトランディングは絵に書いた餅(原文:pie in the sky)かと尋ねる。

ダリオ氏は最後まで楽観的であろうと頑張り、かなりためらいながら次のように言った。

んー、ソフトランディングと言うのは…あー、どうだろう。ええと…んー。…そうだ。絵に書いた餅だ。高確率でわれわれはスタグフレーションに突入するだろう。