イギリスのキャメロン首相、パナマ文書問題で支払い済みの税金を支払えと迫られる

パナマ文書に関する一連の騒動は富裕層が資産を隠していることが問題なのではない。富裕層が資産を持っていること自体が問題とされているのであり、このことはイギリスのキャメロン首相への民衆の反発によく表れている。

2016年4月、パナマの法律事務所Mossack Fonsecaのサーバがハッキングされ、同社の登記した会社とその所有者に関する膨大な情報が流出した。以下の記事ではパナマ文書は誰がリークしたのか、そしてリークの目的は何であったのかについて論じた。

そして中国やロシアなど旧共産圏の政治家が非難の的になっていることも述べたが、しかし情報統制を敷ける中国やロシアに比べ、そうではない民主主義国の政治家はより困難な状況に直面している。例えばイギリスのキャメロン首相である。

亡父の立ち上げたファンド

キャメロン首相が矢面に立たされているのは、キャメロン氏の亡き父イアン・キャメロン氏が立ち上げたBlairmoreというファンドに30,000ポンドの資金を投資していた件である(Daily Mail、原文英語)。ちなみにキャメロン氏によれば、このファンドを首相になる以前にすべて売却し、その利益に対する税金を当然その時に収めている。

はっきりしておきたいのだが、キャメロン氏に限らず、どの国のファンドであれ、自分がどのような資産に投資しているかについて一般公開する義務は存在せず、またそれがどの国のファンドであるかによって投資の利益に対する税金の支払い額が変わるということもない。そして普通の納税額をキャメロン氏は普通に収めている。

これに対する民衆の反応はどうだったか? 日経によれば、ロンドンでは千人以上が集まってデモを敢行し、キャメロン氏の辞任を求め、「税金を払え」とシュプレヒコールを挙げたらしい。彼らはキャメロン氏に税金を二度払うことを求めているのか? こうした人々は自分が何を言っているのかを理解していない。

また、この件に関するガーディアン誌のミスリードが酷い。彼らの記事(原文英語)には「Blairmoreは30年もの間その利益についてイギリスで一切の税金を支払っていないことを本誌は確認している」と書かれているが、これは当たり前である。

Blairmore自体は資金をプールするためのファンドであり、そのファンドが投資に成功して値上がりした場合、ファンドそのものではなくファンドの所有者が自分の居住地で値上がり益に対する税金を払うように出来ている。そうでなければファンド所有者は同じ投資について二重に税金を払うことになる。この原則に従ってキャメロン氏は税金を払ったのであり、Blairmore自体からイギリスへの税金の支払いは当然行われていないのである。

彼らは何に怒っているのか?

こうした人々の振る舞いを見れば、彼らが怒りを露わにしているのは富裕層が資産を隠していることではなく、富裕層が資産を持っていることなのだということが分かる。自分よりも金を持っている人々を見つければ、それがどのようなものであれ、自分たちにも分け前を寄こすべきだ考える人々は世界の何処にでもいるのだということである。

彼らには道理がない。持てる人々が持たざる人々に分け与えるというのは美しい理念なのかもしれないが、それを持たざる人々の側から要求するならば、それはただのたかりである。

人々の反応が暗示する歪み

こうした騒ぎの暗示する一番の問題は、こうした構造の社会では本当にお金が必要な人々のもとにお金が行くことがないということである。本当に貧しくかつ善良な人々は、こうして自分の要求を他人に対して声高に主張することはない。彼らはただ貧しく、そして静かに暮らしていることだろう。そして道理がなく声の大きい人々の要求のみが通る世の中になっている。

こうした歪みは富裕層の側にもある。キャメロン氏はそもそもファンドへの投資を隠すつもりはなかったはずだ。何故ならば、そこには隠すべき事情は何もないからである。しかし普通の投資と考えていたものが、いきなり表に出ていわれのない非難をされることになる。

そして、本当に非難をされるべき不透明な資金は、こうした流出で表に出てくることはない。プライベート・バンキングに詳しい人間としてはっきり言うが、富裕層が本気で隠そうと思った資産はこの程度のリークでは表に出てくることはない。だからパナマ文書で出てくる資産のほとんどは、キャメロン氏の場合のように恐らくは比較的善良な部類のものであるはずである。

そうして比較的まともな富裕層はしばしば理不尽な非難をされ、本当に邪悪な資金はずっと地下に潜ったままである。非難すべきでないものを非難したい人々は、勝手にそのようにしておけば良い。しかしそれはいつか彼らに返ってくるだろう。