揺らぐサマーズ氏、過熱する労働市場に警鐘

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、急減速するアメリカのインフレと過熱する労働市場のギャップに困惑している。

Bloombergのインタビューで先日発表されたアメリカの雇用統計について語っている。

揺らぐサマーズ氏

サマーズ氏は2022年にはインフレは深刻であるとし、Fed(連邦準備制度)に強硬な利上げを要求していた。だが2022年後半からインフレ率が急落し、しかもアメリカ経済がそれほど弱まっていないことを認識すると、ソフトランディングも可能かとの見解を見せた。

だが強い雇用統計の結果を受け、サマーズ氏が再び揺らいでいる。彼は次のように述べている。

コンセンサス予想と比べて大きな驚きだった。

製造業などにおける明らかな減速など、多くの他の経済指標における兆候に比べ、労働市場はひとりで別の方向に進んでいるようだ。状況はかなり複雑になっている。

雇用統計の結果については以下の記事を参考にしてもらいたい。

失業率は低下を続けている。これは利上げによる経済抑制にもかかわらず、企業が積極的に雇用を続けているということである。

一方でインフレ率が下がっているということは、経済全体は冷却され始めているということである。

矛盾の解釈

前回の記事でも書いたが、この矛盾をどう解釈するかということが問題となる。サマーズ氏は次のように仮説を立てている。

コロナ後の様々な変化を考えると、1つの可能性は、人々がリモートで働くようになり会社に来なくなったので、企業は労働力が確保できるかどうか不安になっているというものだ。労働者を雇える内に雇っておくべきだと考えているのかもしれない。

だがそうだとしても、問題はその雇用が需要に合った適切なものかどうかである。サマーズ氏は次のように続ける。

だが経済における生産量や需要よりもかなり多くの労働者を抱えているように思えてしまう。

だから問題は、これらの雇用が労働者の収入を生み出し、そのお金が使われて経済を大きく持ち上げるのか、それともある時点で企業が過剰な在庫と労働力を抱えていると気付き、このトレンドが急に止まるのかだ。

GDPの解説でも書いた通り、アメリカ経済内の需要は着実に抑制されつつある。

それでも現在の雇用増は適切なのか。そうでなければ、過剰な供給が将来的なデフレを生み出すことになる。だが短期的にはもちろん賃金増加を通してサービス価格のインフレを悪化させるだろう。

複雑なアメリカ経済の状況

結局アメリカはインフレなのかかデフレなのか。CPI(消費者物価指数)はデフレを示しており、雇用統計はインフレを示している。

サマーズ氏も揺れており、次のようにコメントしている。

これはわたしの記憶にある中でも読むのが難しい経済状況だ。

1年前には主要な需要の不均衡がどうなっていて、これからどうなるのかということにかなり自信があった。今は同じだけの自信はない。

サマーズ氏は問題の本質をこう指摘する。

根本的な問題はこうだ。インフレには2種類あり、簡単に上がり簡単に下がるインフレと、ベースとなっている根強いインフレがあるのか、あるいはここ数ヶ月のインフレ率下落が多くを意味するのかだ。

しかし前回の記事でも述べた通り、筆者は結局のところ、エネルギーと住宅価格はデフレで労働市場はインフレだということだと考えている。その相反するトレンドはインフレ率全体の数字として統合され、結局それが半年後にいくらになるかということである。

詳しくは以下の記事を参考にしてもらいたい。

半年後、エネルギーと住宅価格のデフレによるインフレ率下落効果が剥落したとき、アメリカのインフレはどうなるのか。少なくとも原油価格は下がり続けており、エネルギーのデフレは半年以上長引くかもしれない。

だがもう少し詳しい分析が必要だろう。