世界最大のヘッジファンド: 富裕層に資産税を課すべきか

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、The Hustleのインタビューで富裕層への課税と世代間格差について語っている。

資産税

アメリカは世界有数の貧富の差が大きい先進国である。誰でも能力さえあれば大儲けできることをアメリカンドリームと言ったが、それもアメリカ経済にもっと余力があった時代の話かもしれない。

貧富の差が問題になるのは、それが倫理的に問題だからではない。実務的な観点から言えば、貧富の差は暴動や内戦に発展するから問題なのである。この観点から言えば、貧富の差が正当に生まれたものかどうかは問題にならない。それが妥当であろうがなかろうが、社会的問題を生むから対処すべきなのである。

ダリオ氏は、本人が世界有数の富裕層だが、富裕層に課税するための資産税の必要性について聞かれて次のように答えている。

富の移転は必要だろう。そしてそれは大部分が税によって行われることになる。富裕層にはそれを支払う能力もある。だからそれは不可避だと思う。富の移転は起きるだろうし、起きるべきだ。

しかしダリオ氏は資産税自体には反対のようだ。彼は次のように述べている。

だが、どういう税によって行うべきかは別の問題だ。資産税で億万長者から税金を取ろうとすると、資産にどう課税するかという技術的な問題がある。

資産税を課すときにはすべての資産の価格を評価できる必要がある。いくつかの資産は価格を評価することが難しい。家の価格はどう決める? 流動性がない。そして流動性がないことは、税金を支払うための現金がないことを意味する。

このように、税には種類によって障壁があることもある。富裕層に課税したければ、相続税はより効率的な課税方法だろう。

流動性がないとは、例えば不動産は株式のようにボタン1つでは売買できず、まったく同じものが2つあるわけではないので他の売買例から価格を正確に決めることができないということである。

資産税が難しい本当の理由

だがダリオ氏のこの回答は本音を言ったものとは言えないのではないか。資産税が難しい理由は、どう考えても評価額の決定が理由ではない。相続税にもまったく同じ問題が存在するので、相続税なら良いとする主張とも矛盾している。

資産税が難しい第一の理由は、まずアメリカでは特に富裕層が絶対にそれを通させないからである。

アメリカでは富裕層の多くは何らかの形で政治家と関わりを持っている。共和党あるいは民主党の寄付者であることがウィキペディアに書かれていることも多い。

資産税はアメリカで話題に登ることもあるが、いつもすぐにたち消えている。富裕層の政治的な力が強い限り、資産税は不可能だろう。

また、資産税が難しいもう1つの理由は、富裕層が持っている資産の在り処を特定できないからである。日本でもマイナンバーカードが話題になっているが、まったくの無駄である。これについては別の記事を書きたいと思う。

富裕層への課税はそもそも正当か

そしてそもそも富裕層への課税が正当かという問題についても話しておきたい。筆者は基本的には同じ公共サービスを受ける人間が異なる税金を支払うことを不当だと考えている。自分の努力で正当な報酬を受けた富裕層であれば、自由意志で貧困層に援助するのは自由だが、貧困層がそれを要求するのはただのたかりである。

一方で、現在の富裕層には自分の事業で稼いだ報酬ではなく、不当に得た報酬がある人が大半である。その不当な収入とは、金融緩和による資産価値の値上がりである。

量的緩和とは中央銀行が紙幣を印刷して債券や株式などの資産を買うことである。つまり量的緩和は資産価格を上げる政策であり、その受益者は当たり前だが資産を持っている人である。

筆者にはまったく理由が分からないのだが、この政策は何故か資産を持っていない人に大きく支持された。一方で筆者やファンドマネージャーら資産を持っている人は、紙幣印刷政策はインフレを引き起こすとしてばら撒きに一貫して反対していた。

そして資産を持っていない人は何の恩恵も得なかった上に、インフレに苦しむことになったというおまけまでついた。しかも過去40年間資産価格を押し上げてきた金融緩和がインフレで出来なくなってから、これまで投資をしていなかった人がつみたてNISAなどで株式市場になだれ込もうとしているのだから、何かの冗談かと思ってしまう。

だから貧富の差を本当に拡大させたくなければ、単に緩和政策を止めれば良いのである。それは当然に資産のある人を富ませる政策であったのに、何故誰も気づかなかったのか。

結論

しかし現在の状況は自分にとって何の得にもならない紙幣印刷政策を支持した大多数の人々の自業自得だと考えれば、その結果については受け入れてもらうのも妥当な結論なのかもしれないが。

だがそれらの人々の将来設計がつみたてNISAによって更に詰もうとしていることについて はもうどうしようもない。

ダリオ氏は次のように述べている。

今の世代、つまりわたしの世代は大量の借金を作り上げた。そして次の世代、つまり君たちの世代に壊れたインフラと負債を残した。

しかしそれもあながち自業自得だと思うのである。そういう政治家を自分で支持しているではないか。