レイ・ダリオ氏: 国家が衰退する時期には独裁者が生まれやすい

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで中国経済におけるバブル崩壊と、そうした環境において政治的指導者がどういう人物になりやすいかについて語っている。

中国のバブル崩壊

現在、中国では長年続いていた不動産バブルが崩壊し、失業率が高騰するなど経済的に厳しい状況が続いている。

多くの先進国で株価が上昇しているなか、香港ハンセン指数のチャートは次のように大幅下落で推移している。

ダリオ氏は今の中国経済について次のように述べている。

中国国内は今経済的に非常に難しい状況にある。何故ならば、多くの国民が不動産や株式その他の資産価格の下落、雇用減退、賃金下落による負の資産効果に苦しんでいるからだ。

経済危機と政治的指導者

これは中国の長年の経済成長の総決算であり、特に地方政府の負債によって不動産市場を人為的にバブルにしてきたツケを払う段階が来ていると考えられる。

多くの投資家なら中国のバブル崩壊の先行きと、その後の中国の経済成長がどうなるかについて考えるところである。

だがダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』でオランダ海上帝国や大英帝国など歴代の覇権国家がどのように繁栄し衰退してきたのかを分析しているように、いつも経済を政治と関連させて論じてきた。

だからダリオ氏によれば、これからの中国経済の見通しを予想するためには、中国の政治がどのように展開してゆくのかを理解しなければならないということになる。

ダリオ氏が指摘するのは、こうした国家の危機的状況において国の指導者がどういう人物になるのかということである。ダリオ氏は次のように述べている。

歴史を見れば、あらゆる国家が100年に一度と言えるような危機を経験するとき、その国の指導者は独裁的な政策を採用することが多い。

何故ならば、そうしなければ大きな内紛や騒乱が起こるからだ。また、そうした時期には支配者層を攻撃する勢力がいることが多い。

中国を率いている習近平氏は国内の営利的な学習塾の禁止やゲーム産業への厳しい規制などの政策で知られる。また、2022年の人事改革で親ビジネス的な政治家がまとめて排除されており、これにはダリオ氏も懸念を示している。

しかしダリオ氏がここで言いたいのは、こうした状況において独裁的な政治家が現れるのは国家の成長と衰退のサイクル的に避けられないことであり、それは西洋の国々でも同じことだということである。

ダリオ氏は次のように纏めている。

国の指導者がその時代の状況を決めるというよりは、時代の状況が国の指導者を決めると言った方が正しい。

西洋における独裁主義

国が危機的状況に陥ったとき、独裁的な政治家が現れる。現れるだけでなく支持されることも多い。

一番典型的なのは第1次世界大戦後のドイツだろう。敗戦国となったドイツは巨額の賠償金を負い、ドイツはそれをハイパーインフレによってチャラにすることになった。

「政府の借金は問題ない」と叫ぶ一部の人々の叫び声のように政府の借金はしっかりチャラになった一方で、ハイパーインフレによって国民の生活は無茶苦茶になった。

そこで出てきたのがアドルフ・ヒトラーとナチ党である。ナチ党は経済的に完全に疲弊していたドイツ国民によって支持され、ドイツは第2次世界大戦へと向かってゆくことになる。

いつものことだが、ダリオ氏は独裁的という言葉に善悪の判断を行なっていない。ただ歴史的にそうなっているという事実を見るだけである。

そういう意味では、例えばアルゼンチンの状況もダリオ氏のサイクルに当てはまると言えるかもしれない。

アルゼンチンでは政治家が国の借金を使って好き放題にばら撒きを行い(まるで何処かの国のようだ)、そしてハイパーインフレになった。

疲弊したアルゼンチン国民が選出したのは、そうした腐敗した政治家を非難する経済学者のハビエル・ミレイ大統領である。

彼は政治家に通貨発行権を持たせてはならないとするオーストリア学派の経済学者であり、政治家が低金利を使って国の借金で好き放題やらないように、自国通貨を廃止すると言っている。

経済学者フリードリヒ・フォン・ハイエク氏の主張と同じである。

それはかなりの独裁的な強権が必要となる政策である。その意味ではアルゼンチンでは、ミレイ大統領が独裁的になれるのかどうかが注目されている。

ミレイ大統領が独裁的になれなかった場合、アルゼンチンの政治腐敗は継続し、また次の独裁的な政治家が現れて腐敗のサイクルを終わらせるまで、サイクルは継続するだろう。

結論

中国を例にしたダリオ氏の話から読み取れる教訓がある。アメリカや日本の状況も、独裁的な政治家が現れる土壌が出来上がっていると言える。

トランプ氏がバイデン氏より独裁的だとは筆者は考えていないが、両方の候補者に不満を持っているアメリカの有権者は少なくない。今年の大統領選挙ではないだろうが、トランプ氏でもバイデン氏でもない第3の過激な政治家が出てきて、政治をまったく別の方向に向かわせるような土壌は出来ていると言える。

また、個人的な見解では日本はその状況にアメリカよりも近い。国民は自民党の腐敗から目をそらせないような状況になっているが、野党に満足しているわけでもない。

これはまさに独裁的な第3の政治家が現れるのに理想的な状況であると言える。

どちらにしても、日本もアメリカも中国も末期である。だから多くの投資家がインドに期待を寄せる理由も分かる。

国家は繁栄し、それから衰退する。ダリオ氏の著書で説明されているように、それぞれの国がこのサイクルの何処にいるのかを意識しておく必要があるだろう。株式に長期投資をする際には、特にそうである。


世界秩序の変化に対処するための原則