引き続き、Citadel創業者のケン・グリフィン氏の、スタンフォード大学経営大学院によるインタビューである。
AIとヘッジファンド
前回の記事では、グリフィン氏はヘッジファンドのビジネスを始めた方法について語っていた。
今回の記事では、AIについて聞かれている部分を紹介したい。
グリフィン氏はCitadelのビジネスでAIを使っているかと聞かれて、次のように答えている。
AIをわれわれの投資の仕事で使っているか? 少し使っている。少しだ。革命的だとは言えない。
時間の節約にはなる。生産性も向上する。AIは良いものだ。だが金融の仕事の多くにとって革命的だとは言えない。
グリフィン氏は、AIそのものの革新性を認めながらも、投資家の仕事そのものを置き換えるものだとは考えていないと言う。
グリフィン氏は次のように続けている。
何故か? 機械学習は人類の歴史でこれまでに起こったことに基づいている。しかし投資は明日、明後日、来年、2年後に何が起こるのかを理解する仕事だ。そしてそれは機械学習の訓練がそれほど役に立つ領域ではない。
AIの得意分野
何故そう言えるのか。グリフィン氏は次のように説明している。
機械学習は、与えられたデータの諸関係によって明日以降の未来を予想できる場合にのみ真価を発揮する。
例えば自動運転車は経験上、南の方の地域では上手く行く。空は綺麗で、雪のない土地だ。分かるだろうか?
雪が自動運転車にとっては致命的だ。雪は、車が道路から外れないために認識しなければならない地形の輪郭線を変えてしまう。
何故雪があると自動運転が上手くいかないのだろうか? その理由は、雪の形や雪質、積もり方などの状況が毎回異なるからだ。
以前のデータがこれからの予想に使えなくなれば使えなくなるほど、機械学習にとっては苦手な分野となる。
グリフィン氏は次のように続けている。
だから機械学習は、もっとデータが変わらないものの分析に向いている。例えばレントゲン写真の解析だ。
投資とAI
では投資はどうだろうか? グリフィン氏は次のように主張している。
だが投資は、将来がどうなるかを理解する仕事だ。そこでは機械学習は真価を発揮できない。
投資では、特にコロナ危機やリーマンショックなどの大きな動きがある時には、過去の事例はそれほど参照できない。例えばコロナ危機と類似する過去の相場はSARSやスペイン風邪などだが、AIが学習するには過去の類似の事例が少なすぎ、しかも過去の類似の事例と新たな事例は異なる点も多いからである。
だが短期トレードであれば、参照できるデータは数多い。1日に何百回、何千回と起きるような短期の値動きに関しては、機械学習は優れたパフォーマンスを発揮する。
グリフィン氏は次のように述べている。
機械学習は短期トレードでは優れている。短期というのは、5分先という意味だ。だが来年、再来年の未来を予想しようとすると、機械学習は途端に駄目になる。機械学習は長期投資に向いていない。
結論
ということで、AIがヘッジファンドを置き換える日はまだ遠いようだ。スタンレー・ドラッケンミラー氏も似た主張をしていたことを思い出したい。
また、AIが出てくる前からAIを使った短期投資と同じことをやっていたヘッジファンドがある。去年亡くなったジェームズ・サイモンズ氏のRenaissance Technologiesである。
Renaissance Technologiesは元物理学者などのクオンツを集めたアルゴリズム投資の雄であり、統計学を使った短期投資で世界トップの実績を誇る。
彼も、短期投資なら出来たがファンダメンタルズに基づくもっと長期の投資は出来なかったと言っていた。定量的な分析による投資の限界はやはりその辺りにあるようだ。