短期金利の暴走が示す長期金利の急騰シナリオ

さて、アメリカによる金融引き締めがどの辺りまで進むのかを測るためには短期国債の金利を注視すべきだと言い続けてきたが、この短期金利が筆者の予想よりもかなり早く臨界点に達してしまった。これは勿論、金融引き締めに賭けるトレードにとっては良いニュースなのだが、しかし短期的なトレード戦略を微修正する必要がある。

短期国債の金利

以前より説明しているように、短期国債の金利、つまり1年物や2年物、3年物などの国債の金利は、基本的には満期までの期間の政策金利がどうなっているか(1/22修正)を意味している。そして現在の時点で、アメリカの短期国債の金利は次のようになっている。

  • 1年物国債: 1.79%
  • 2年物国債: 2.06%
  • 3年物国債: 2.20%

これはつまり、3年後には政策金利、つまりもっとも短期の金利が2.2%まで上がっていることを意味している。これは実体経済を考えても、株式市場への影響を考えても、不可能である。この意味で、以下の記事ではこれを利上げの限界点と考え、金融引き締めトレードについて次のように主張した。

3年物国債の2.2%前後、長期金利の3%で撤退し金融緩和トレードに転じるというのは絶対の条件である。それまでに自分のトレードがそれほど利益が出ていなくとも、あるいは赤字でも、赤信号が点灯した場合にはそこが金融引き締めトレードの限界である。

しかし実際には、3年物国債の金利の勢いは止まらず、2.2%まで速度を緩めることなくあっさりと到達してしまった。

一方で、幸いなことに長期金利、つまり10年物国債の金利の方は2.64%と3%に達しておらず、しかもアメリカ経済はまだ減速からは程遠い。以下の記事ではアメリカ経済は少なくとも夏まで大きな減速がないと分析した。

短期金利、長期金利、実体経済の状況を総合して、投資家としてどう動くべきかである。

市場の不合理をトレードする

つまり、限界に達したのは短期金利のみだということである。そして幸い、Fed(連邦準備制度)が利上げとバランスシート縮小を撤回して金融緩和に転じる原因となるのは、株式市場に影響する長期金利と実体経済であって、短期金利ではない。従って、投資家としては3年物国債だけが明らかに行き過ぎているこの状況を大いに利用するべきだろう。

短期金利の上昇度合いは明らかに筆者の予想より早いが、短期金利が早く上がれば上がるほど、長期金利には短期の側から強い圧力が掛かる。したがって長期金利が上昇する時には、短期金利が低い場合よりも急速に上昇することになるだろう。これは債券投資家ビル・グロス氏の予想する「緩やかな金利上昇」とは異なるシナリオである。

そして、長期金利の上昇が急速であればあるほど、長期金利はより高く上昇することが出来、金融引き締めトレードの利益も大きくなる。長期金利が実体経済に影響するまでには時間が掛かるため、影響が出る前に素早く上昇してしまえるということである。

そして、以下の様々な金融引き締めトレードにとって、金利の上昇が一瞬であろうとなかろうと、重要なのはその点まで金利が上がるか上がらないかであり、そこにどれだけ長く滞在するかということではない。流動性の十分ある市場ならば、数日でもそこまで上がれば、利益確定してしまえるからである。

  • ゴールドの空売り
  • 金鉱株の空売り
  • ドル円の買い
  • 新興国通貨の空売り
  • 米国超長期債の空売り
  • 米国グロース株の空売り
  • 銀行株の買い
  • ジャンク債の空売り

これら金融引き締めトレードには様々な長所と短所があり、トレードを始める価格にもよるが、ものによっては現物よりも(横ばいでも利益となる)オプションの売りの方が適しているものもある。筆者は(ロシア銀行株など個別株を除けば)ジャンク債の空売りにほぼ一点賭けしている。金融引き締め相場では一番リスクの高いものから売られてゆくからである。

因みに、短期金利のみが上がっている状況は、株式市場にとっても短期的には良いニュースである。金利高による悪影響も、直接影響する長期金利が上がるまでは延期される。短期金利が影響するのは銀行株くらいである。

しかし長期金利はいずれ急騰するだろう。そうなればこれまで好調の米国株も少なからず影響を受けることになる。セクターごとに見れば、影響は既に出ているからである。

国債の金利など債券市場は今後も株式投資家、為替投資家にとって転換点を教えてくれるが、いくらが限界だと事前に言うよりは、短期金利と長期金利と実体経済をすべて含めて判断するのがより適当だと考えたので、今後はそうすることにする。金融引き締め相場の行方を今後も引き続き伝えてゆく。