世界同時株安: 今後の大きな資金の流れを解説する

2018年2月初頭に始まったアメリカ発の世界同時株安だが、今後の動向を予測するためにはアメリカの(あるいは日本の)株式市場だけを見ていてはどうにもならない。根本的な原因となったアメリカ長期金利のチャートを見ることも勿論大事だが、それだけでもこの状況の全体図を見ることは出来ないのである。

したがって、この記事では世界中の様々な金融市場のチャートを見比べた上で、世界の資金の大きな流れがどうなっているのか、それが今後どのようになってゆくのかを解説したい。

米国株と長期金利

先ずはアメリカの株価指数S&P 500からである。

一度下落してから反発しているが、今後どうなるかである。

この下落の原因となったのがアメリカの長期金利である。長期国債の金利が上がったことによって、投資家の資金が株式市場から国債へと逃避し、株式市場が下落した。

米国株は一時反発しているのだが、原因となったはずの長期金利のチャートは上昇トレンドのままである。

この止まらない長期金利の上昇が本当に株式市場にとって問題ではないのかということが焦点となる。

長期金利上昇の意味

そもそも何故長期金利が上昇しているのかと言えば、Fed(連邦準備制度)が利上げとマネタリーベース縮小という強力な金融引き締め政策を行っているからである。

金融引き締めとは市場から資金を吸い上げるということである。だから株式市場から資金が流出しているのである。

ただ、資金が流出しているのは株式市場だけではない。中央銀行が資金を引き揚げる時に起こるのは、全体のパイが縮小するということであって、具体的にどの国のどの金融市場(株式、債券、為替、コモディティ)からどの程度資金が流出するかということは、投資家が考えなければならないことである。そして重要なのは、市場によって流出の度合いが違うということである。

米国株の他に資金が流出している市場は、例えば日本株である。

下落相場ではいつものことだが、米国株が反発する時にも日経平均は戻りが鈍い。

「アメリカがくしゃみをすれば日本が風邪を引く」という言葉もあるが、「アメリカがくしゃみをすれば新興国が風邪を引く」という言葉もある。以下は上海総合指数のチャートである。

高値からの下落幅もそうだが、2017年の後半から上値が重いことを考えると、米国株や日本株よりも不調と言える。

アメリカの金融引き締めによって世界の金融市場全体から資金が引き揚げられる時、投資家はリスクのより高い資産から投げ売りしてゆく。だからアメリカが震源地だからといって、アメリカの市場が一番暴落するとは限らないのである。

また、資金の流出によって相場が動いているのは株式だけではなく、例えば原油などのコモディティも同じである。以下はWTI原油先物のチャートである。

原油市場は2017年の間はOPECによる減産合意など供給の要因で動いていたが、2018年に入ってからは明らかに株式市場の混乱と連動している。つまり、原油市場からも資金の流出があるということである。リーマンショックの時にも原油価格は先ず暴騰して、そして暴落した。

これらのチャートを比べてどうだろうか? アメリカの金融引き締め相場では、歴史的には新興国市場から資金が大量に流出するのが通例だったが、今回はそれほど感情的な暴落にはなっていない。アジア通貨危機などの頃に比べると新興国はしっかりしており、また先進国のような低成長トレンドにもなっていないため、高成長、高利回りを期待する投資家の資金が流出しにくいのである。

では、新興国資産の他に金融市場で高リスクの資産とは何かと言えば、それはジャンク債である。ジャンク債とは倒産リスクの高い企業の発行する債券で、デフォルトの可能性が高い代わりに金利も高く設定されている。

何処から最初に資金が流出するかと言えば、海外の高リスク資産かアメリカ国内の高リスク資産ということになり、新興国の経済が比較的健全な今回の場合は、やはりアメリカ国内のジャンク債ということになる。これが去年からの筆者の予想だったのである。ジャンク債ETFのチャートは以下のようになっている。

結論

繰り返しになるが、金融引き締め相場では高リスクの資産から順番に資金が流出してゆく。2018年の状況では、恐らく資金の流出は以下の順番で起こることになるだろう。

  • ジャンク債
  • 新興国資産、日本株、欧州株、コモディティ(原油など)
  • 米国株

実際、現状ではそのようになっている。しかし問題は、市場全体からの資金流出が上記の3段階のうちどの段階まで侵食するのかということである。この議論が米国株と日本株の運命を決定する。

少なくとも、実際に大量の資金が吸い上げられる以上、現状一番リスクの高いとみなされている資産(つまりジャンク債)は下落を免れないというのが、筆者の去年からの予想である。

しかし上記の第2層、第3層まで影響が及ぶのかということは、流出する資金の量を計算して初めて考えられることである。しかし、そのような計算を実際に行ったレイ・ダリオ氏は株高に賭けて失敗したのである。

われわれの計算によれば、一般的には企業利益の増加(株式にとってプラス)が金利上昇(資産価格全体にとってマイナス)よりも速い場合は差し引きで上げ相場になるはずである。

レイ・ダリオ氏は世界最大のヘッジファンドを運用するファンドマネージャーであり、特に計量分析に関しては世界随一のスペシャリストである。

そのダリオ氏でも失敗したことに挑戦し、米国株や日本株が上がるか下がるかを考えるよりは、一番最初に資金が流出すると分かっている市場(つまりジャンク債)を空売りすることが一番単純で安全なのではないか、と筆者は去年から言っている。しかし、ダリオ氏を含め、同意する人は少ないようである。筆者は筆者のやるべきことを淡々と続けてゆく。