パウエル議長が就任後初のスピーチ、世界同時株安は無視して利上げ継続へ

アメリカ発の世界同時株安が進んでいる。株価下落の原因は、これまで報じている通りアメリカ長期金利の上昇によって投資家の資金が株式から金利の上がった国債に流出したことである。

したがって市場の関心は、利上げとバランスシート縮小という金融引き締め政策を開始したイエレン前議長の後を引き継いだFed(連邦準備制度)のジェローム・パウエル新議長がこの市場下落にどう対応するかということだが、そのパウエル議長が就任後初の講演を行った。Fedの議長の講演は金融政策決定会合(FOMC会合)の声明文と同じように今後の金融政策の手がかりを示すものであるので、声明文と同じようにレビューしてゆきたい。

就任後初のスピーチ

2月2日に世界同時株安が始まって以来、投資家の多くはパウエル議長がどう反応するかを見守ってきたが、今回が初の公式声明となる。講演はワシントンDCのFed内部で行われ、就任の挨拶から始まり、現在の世界経済の状況にまで言及している。ここでは特に経済について言及した部分を取り上げてみよう。

わたしがFedの理事になった2012年には、失業率はまだ高く8.2%で、多くのアメリカ人がいまだ金融危機の影響で苦しんでいた。その頃からFedの金融政策は労働市場とインフレの回復を支え続け、そしてこれまでに目標に向けてのかなりの進展があった。

今、世界経済はここ10年で初めて力強い回復を見せている。現在Fedは金利とバランスシート両方の正常化を進めており、経済回復と物価安定目標は引き続き達成されてゆくものと考えている。

就任の挨拶だから当たり前と言えば当たり前なのだが、基本的に良い事しか書いていない。そして、「こうした結果の多くはバーナンキ議長とイエレン議長の功績である」として、これまでの前任者の責務を引き継いでゆく決意を示す講演となっている。

リスク要因については「金融の安定を脅かすリスクについては注視する」という言葉はあったが、逆に言えば一定の長さのある講演のなかでリスクに言及したのはその一文だけだった。これをどう解釈すべきかである。

パウエル議長のメッセージ

基本的に、中央銀行の声明文とは短期的な市場の値動きに感情的に反応しないものであることは確かであり、上記の講演内容は当たり前のものとも言える。

では、パウエル議長は単にメッセージを送らなかったのだろうか? そうではない。投資家が読み取るべきメッセージは存在している。

何故ならば、Fedは株式市場の急落であっても、反応すべき時にはしっかり反応するからである。例えば、1987年のブラックマンデーで市場が20%も急落した時、当時のグリーンスパン議長は「Fedは経済と金融システムを支えるために流動性を提供する準備が出来ている」という短い声明文を発表し、株価急落に介入する決意を直ちに表明した。

しかし、パウエル議長にとって今回の講演は3月のFOMC会合までに市場に意思を伝える一番の機会であるにもかかわらず、世界同時株安には言及しなかった。つまりはそういうことなのである。パウエル議長が送ったメッセージは「まだこの段階ではFedは反応しない」ということである。

この解釈は他のFedのメンバーの見解と合わせて見ればより明確となる。例えば、最近副議長候補として報じられたクリーブランド連銀総裁のメスター氏(元々タカ派として知られている)は次のようにはっきりとコメントしている。(CNBC、原文英語

株式市場の下落がより大きくなれば経済のリスク志向や消費活動が後退することもあり得るが、現状株式市場を見る限りではそうしたシナリオからは程遠いと言える。

現時点においては、個人的には今の市場の混乱があったとしても経済成長は持続すると考えており、見通しを変えていない。わたしの見方では、経済のファンダメンタルズは非常に強い。

因みにメスター氏が副議長に就任すれば、Fedはよりタカ派色が濃くなるだろう。

また、こうした反応はタカ派のメスター氏だけではない。サンフランシスコ連銀総裁のウィリアムズ氏もはっきりとこう言っている。(Reuters、原文英語

はっきりと言っておきたいのは、Fedが市場の急落に過剰反応するとか、経済に関する良いニュースを無視するとか、そういう神話を信じている人々は、それを忘れたほうが良いということだ。

サンフランシスコ連銀はイエレン前議長がかつて総裁を務めた連銀であり、イエレン氏の意見に近いと言われる。

結論

ここまで書けば、現在の市場急落について中央銀行がどう考えているかは明白だろう。利上げとバランスシート縮小という強力な金融引き締めは、株価急落が現在の規模に留まるのであれば何の問題もなく続行されるということである。

それは当然、市場急落が長期金利の上昇を抑えるだろうという投資家の淡い期待が成り立たないことを意味する。世界同時株安の原因となった長期金利は、株価が更に大幅に下落しない限りは気にせず更に上がっていくだろう。

因みにパウエル議長を含むFedのこうした反応は、6日の記事において事前に予想している。

パウエル議長がどういうコメントを出すのかということに、今後の株価の動向がかかってくる。

筆者の予想は、素早い対応は不可能というものである。米国株はガントラック氏の予想通り、早々と年始からの上昇分を吐き出したが、年始からの上昇分を吐き出したくらいで中央銀行が慌てては、中央銀行の信認にかかわり、むしろ長期的には混乱が大きくなる。

つまり、米国株が更に下落をしない限り、パウエル氏はこれまでの金融引き締め路線を継続すると言わざるを得ないだろう。何しろ実体経済自体は絶好調で、ここで利上げを撤回しては株式市場の言い分を飲んだことになる。そうすれば、長期的にはより下落の大きい催促相場が始まることになる。

長期金利上昇を含め、ここの読者には想定外の動きなど何もないはずである。

また、最近株高予想を撤回したBridgewaterのレイ・ダリオ氏は、弱気転換の理由として金利上昇をあげ、そして弱気予想が決定的になるかどうかの基準として次のようにコメントしていた。

こうした状況に対する中央銀行の対応と、それが決定する実質(つまりインフレ率を差し引いた)金利は非常に重要なファクターとなるだろう。だからわれわれは金融政策を注視している。

その金融政策は引き締め継続だそうである。ダリオ氏は今何を考えているだろうか?