2020年の株式市場の動向予想、株価暴落の兆候なし

アメリカの株式市場は2018年の世界同時株安以来上がり続けている。世間では米中通商合意のおかげだということになってはいるが、様々な観点からの証拠がその推測を否定している。

これまで述べてきた通りアメリカが中国に課している関税はアメリカGDPの0.4%でしかなく、しかも第一段階合意ではそのほとんどが残ったままとされている。

大手メディアは米中貿易戦争ばかり報じているが、金融市場はより冷静な見方をしており、例えば中国株がそれほど上がっていないことは米国株の上昇が米中合意とは関係のないことの1つの証明である。米中合意に反応しているならば中国株が真っ先に上がるはずだからである。

上昇する米国株

こうした事柄を考えると、米国株の上昇は行き過ぎているように思える。しかも行き過ぎているのは主要指数に採用されている銘柄だけだということは2018年の世界同時株安の頃から変わっていない。以下は主要株価指数であるS&P 500のチャートである。

一方で、以下は小型株指数のRussell 2000のチャートである。2019年終盤の上昇だけを比較してもS&P 500ほどは上昇していない。

この小型株指数の下落は筆者に2018年の世界同時株安の天井のタイミングをほぼ厳密に教えてくれた先行指標である。

その先行指標は現状では下落はしていないものの、2018年以前の上昇ペースを取り戻したわけでもない。

米国株上昇はバブルか

この状況を投資家はどう解釈すべきだろうか? 米国株の上昇は主要指数のみが押し上げられたバブルだと考え、下落を予想すべきだろうか?

ここ10年ほど金融市場はバブルの崩壊を経験しておらず、多くの読者にとってバブル崩壊はあまり現実味のないものかもしれないが、市場でバブルが崩壊する時には事前に兆候があるものである。

例えば2008年のリーマンショックでは株価の下落に先行して住宅価格が下落を開始しており、住宅バブルの崩壊が大きな影響を及ぼすことが事前に警告されていたにもかかわらず、誰も耳を貸さなかった。

2018年の世界同時株安は中央銀行の心変わりで一時中断されたが、当時筆者は明確な理由を挙げて2018年後半の株価暴落を警告していた。

この2つの例に限らずバブル崩壊には事前に明確な兆候がある。むしろ明確な兆候がありながら誰も耳を貸さない状態こそがバブルだと言えるだろう。

2020年の株式市場

では2020年の株式市場はバブルなのか? 結論から言えば、2018年や2008年のようなバブル崩壊の兆候を探してみたところ、そのような兆候は見つからなかったということである。

まず実体経済に関して言えば、指標はどれも中途半端である。株価上昇を正当化するほど良いものではないことは間違いない。一方で株価暴落を暗示するほど悪いものでもない。

金融市場も同様である。小型株指数Russell 2000は確かにS&P 500ほど上がってはいないが、2018年のように下落を始めているということもない。

日経平均や欧州株も同様にS&P 500ほど上がってはいない。中国株は振るっていない。しかしトルコリラなど市場に資金が足りない場合に真っ先に下落する新興国通貨などもある程度安定している。

日本市場に目を向ければ、東証REIT指数が危うい動きをしている。不動産投資信託とは思えない低い利回りを考えてもバブルである可能性が高い。一方でJASDAQは急上昇している。マザーズは低いままである。

このように好材料と悪材料が入り乱れているのである。しかし米国株以外に好材料がある間は米国株の本格的な下落は考えづらいだろう。リスク資産が先に下落し、米国株が下落するのは基本的には最後となるからである。

よって金融市場も先進国株の暴落を予想する状況にはない。

目下一番バブル崩壊に近いシナリオはすべての上げ材料を使い切ってしまうシナリオである。例えば米中貿易戦争が解消されてしまう場合、これまで米中貿易戦争の解消を材料に上がってきた株式市場は上昇の口実を失ってしまう。材料出尽くしというものは一般の人々が想像するよりも市場にとっては脅威なのである。しかし第一段階合意が中身のないものであったために市場はもう半年ほど米中貿易戦争を口実にすることが出来る。これが目下一番の下落シナリオだったのだが、これも延期されてしまった。

兆候がないことの意味

筆者は米国株上昇を受けて金融市場と経済統計の両方にバブルの兆候を探したが、結論としては見つけることが出来なかった。バブル崩壊にはほぼ必ず兆候があり、兆候がないことは基本的にバブル崩壊を意味しないと思って良い。

一方で、明らかな兆候がなくとも比較的小さい株価下落は有り得る。例えば2018年前半の世界同時株安である。2018年前半の下落は10%程度、後半の下落は25%程度だったが、筆者は後半を予測したのみで前半の兆候を見つけることは出来なかった。世界最大のヘッジファンドを運営するレイ・ダリオ氏が株式に非常に強気だった頃のことである。

個人的な感覚で言えば現在の状態は2018年のこの頃に似ている。

しかし下落が始まった場合、トランプ大統領は米中通商合意を本当の意味で前に進めて上げ材料を提供することが出来、また中央銀行も1.5%の利下げ余地を残している。株価を支える余地は少なくないのである。

これまで株式市場は「まだ株価を支える余地がある」ということを支えに上昇を続けてきた。しかしその余地は本当に限られつつある。日銀はもうずっと限界まで緩和をしており、ユーロ圏も量的緩和を再開した。

アメリカも実質的には量的緩和を再開している。

つまり、世界の中央銀行にはアメリカの1.5%の利下げしか緩和余地が残されていないのである。

すべての中央銀行が緩和手段を使い切る時、2008年以来の量的緩和バブルの崩壊が本当の問題となることになる。しかしそれはもう少し先の話だろう。

2020年は2018年のようにはならないというのが現状の筆者の見方である。この状況でどういうポジションにすべきかということは、また別に記事を書くこととする。現状は金融市場も実体経済も良くも悪くもない。しかしそれならそれで投資家に出来ることはあるのである。