新型コロナで株価暴落のアメリカの航空会社たち

新型コロナウィルス肺炎で様々な業種が影響を受けているが、その筆頭は航空会社である。株式市場は全体が下がっているが、より具体的な視点を得るために窮地にある航空会社の財務がどういう状況になっているのか一度確認してみたい。今回はアメリカの航空会社を取り上げる。

Delta Air Lines

まずは大手のDelta Airからである。航空会社にとって大きなランニングコストとなっているのは人件費であり、社員が無給の休暇を受け入れない限りは飛行機が飛ばなくても給与を支払わなければならない。そこが新型コロナの経済的な問題である。

では航空会社は売上がなくとも給与を支払える資産を持っているのだろうか? Deltaの2019年の決算を覗いてみると次のようになる。

  • 人件費: 11,225百万ドル
  • 純資産: 15,358百万ドル
  • 流動純資産: -11,955百万ドル

先ず、純資産(総資産から総負債を引いたもの)は年間の人件費の1年半分である。新型コロナの影響はおそらく半年前後と思われ、純資産がゼロになるリスクはないだろうが、問題は流動負債(すぐに払わなければならない負債)が流動資産(すぐに現金化できる資産)を大幅に上回っていることである(※3月28日誤りを修正しました)。つまり現金がないどころか、今後負債を返すために現金が必要になるということである。

これは新型ウィルスによって現金収入が入らない場合にDeltaが固定資産(航空機など)の売却を迫られるということである。仮にウィルスの流行が終わっても、飛行機がなくなり、それを買い戻す現金もないのであれば事業規模を縮小せざるを得なくなる。飛行機がなくなった分従業員をリストラする必要に迫られる可能性もあり、リストラにはお金がかかる。

ちなみにウォーレン・バフェット氏はこの状況でDeltaを買い増していると3月3日の時点で報じられているが、この財務諸表でよく買えると思う。3日の時点で買っているならば現時点でも大幅な損になっているだろう。長期投資ならばペイするのかもしれないが、株式市場全体が大安売りとなっている状況でもっと良い銘柄があるだろう。

American Airlines

次はAmerican Airlinesだが、こちらはDeltaよりも酷い状況である。

  • 人件費: 12,609百万ドル
  • 純資産: -118百万ドル
  • 流動純資産: -10,105百万ドル

何と純資産がそもそもマイナスになっている。新型コロナ以前の段階で資産より負債のほうが多いということである。それでも借金で借金を返せる間は破綻しないが、ドラッケンミラー氏の低金利批判を思い出させるような話である。

これで破綻しないのだろうか? 航空会社は政府による救済を求めているが、こうした企業を税金で助けることが本当に経済のためになるのだろうか。しかし少なくとも政府与党に救済された会社関係者の多くは次の選挙で政府与党に投票するだろう。日本でも和牛券などという話が出てきており、航空会社の職員よりも政治家を大量にリストラすれば世界は良くなるだろう。

JetBlue Airways

次は国内線を運行する格安航空会社のJetBlueである。

  • 人件費: 2,320百万ドル
  • 純資産: 4,799百万ドル
  • 流動純資産: -877百万ドル

これは大手の2社よりも状況は良いのではないだろうか。最悪の場合にも純資産の半減で済みそうだが、実際には30%程度の減少になるのではないか。

つまり株価が従来の3分の1になれば買いと言えるのだろうが、新型コロナの影響が軽微な銘柄も大安売りになっている中でJetBlueを買うべきかどうかは考えどころだろう。

ただ、新型コロナがなければ売上高も毎年5%以上伸びているそこそこ優良な銘柄であり、今後も格安航空会社のシェアが大きくなることを考えればそこまで悪くもない。大手航空の提供するファーストクラスのようなサービスに未来はなく、今後は顧客も食事とワインは到着後に優れたレストランに行った方が何倍も良いと気付き始めるだろう。また、優先搭乗に至っては意味が分からない。何故鉄の箱に早く閉じ込められたいのだろうか? 大手航空の受難は続く。

結論

以上のように航空会社の状況はあまり良くない。欧州では航空会社がキャンセルとなった航空券を払い戻ししないことによって資金難を切り抜けようとしているというニュースがReutersに流れており、なかなかひどい話である。航空会社が必死になっている様子が伺える。

それでも銘柄をしっかり選べば買える銘柄もあるのだろう。例えばAmerilan AirlinesとJetBlueが同じような下落幅になっているところに矛盾があり、投資家にとって市場の矛盾はチャンスである。世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏の慧眼がまたまた面目躍如となっている。

わたしの予想では、一時的なショックに耐えられる銘柄と耐えられない銘柄を市場は上手く区別できず、売上への影響にばかり注意が行き、債務への影響は過小評価されるだろう。例えば一時的に大きい影響を受けるものの現金保有が豊富な企業への影響は誇張され、経済的影響は少ないものの大きな短期債務を負っている企業への影響は見落とされがちになる。

そんなダリオ氏でも損をしているのだから相場とは面白いものである。

そして個人的には航空会社よりも空港株の方に財務が万全な大安売りの銘柄があると考えている。以下の記事を参考にしてもらいたい。