12月FOMC会合結果は織り込み済みの利上げ、反対票が暗示する2018年の混乱

12月13日、アメリカの中央銀行に相当するFed(連邦準備制度)は金融政策決定会合であるFOMC会合で政策金利を0.25%上昇させる決定を下した。前回の記事で書いた通り、この決定は市場の予想通りである。

いつも通り、会合後に発表される声明文の内容や市場の反応などをレビューしてゆく。

声明文とドットプロット

先ず、声明文の内容に特筆すべき点はない。ほとんど前回の会合のものを再利用した形となっている。

また、会合に参加した委員が予想する今後の利上げ回数を示したドットプロットについては、2018年に4回以上の利上げを予想する委員の数がわずかに減っものの、平均して3回の利上げを予想しているという点では前回と変わっていない。つまり、声明文とドットプロットにおいて、Fedはこれまで主張していた通り、2018年に3回の利上げを目指すという方針を再確認したわけである。

今回の会合で特筆すべきことがあるとすれば、利上げに反対した委員の数だろう。

参考までに、前回利上げした6月のFOMC会合では、ミネアポリス連銀総裁カシュカリ氏のみが利上げに反対した。ミネアポリス連銀は前総裁のコチャラコタ氏の頃から極端なハト派として知られ、債券投資家のガントラック氏などはそれを理由に次期総裁に選ばれるのはカシュカリ氏だと主張していたほどである。

一方で、今回の会合では前回も反対したカシュカリ氏に加え、シカゴ連銀総裁のエヴァンズ氏が利上げに反対している。エヴァンズ氏はかねてより利上げに慎重な姿勢を表明しており、今回の会合でそれを示した形となる。因みに次期議長となるパウエル理事は、勿論利上げに賛成票を投じている。

Fed内部の潜在的ハト派

エヴァンズ氏の利上げ反対票については、単純にFed内部のハト派の人数が1人増えたと認識する以上に考えるべきことがある。何故ならば、本当は利上げが好ましくないと考えていたものの、ただイエレン議長への敬意から利上げに賛成票を投じた委員が潜在的に存在する可能性があるからである。

「敬意から賛成票を投じる」とはどういうことか? これは以前取り上げたウォルシュ元理事の例を引いてくるのが早いだろう。次期議長候補の1人だったウォルシュ氏は、バーナンキ議長時代にFedの理事を務め、バーナンキ氏の推進する金融緩和に賛成票を投じながらも、自分はバーナンキ氏への「敬意」から賛成票を投じただけで、自分が議長だったらそうはしないだろうと語っていた。以下に引用する。

自分が緩和継続に賛成票を投じた決定について少し語らせてほしい。

もし自分が議長の椅子に座っていたならば、理事会をこのようには牽引しない。もし自分が議長としてここにいるメンバーを率いているとすれば、自分は多数派に反対しなければならないだろう。

4年半の間に培われたバーナンキ議長への自分の尊敬は非常に厚い。そして議長の意見が自分のものと反対であることが自分には重荷であり、量的緩和プログラムが成功する可能性についてこの重要な場で疑問を呈さなければならないのは辛いことだ。

「議長への敬意から自分の思惑と反対の票を投じる」とはこういうことである。そして、もしイエレン議長への敬意から利上げに賛成した委員が一定数居たとすれば、来年議長がパウエル氏になった時に、彼らはどう動くだろうかということである。

次期議長パウエル氏

次期議長のパウエル氏は現在Fedの理事であり、今回のFOMC会合にも当然参加している。他のメンバーにとっては、これまで自分と同格だったメンバーが、いきなり議長になるということになる。

元々が著名な学者であるイエレン議長やバーナンキ元議長らは他の学者のメンバーの尊敬を集めていたが、パウエル氏は実業界の出身であり、その専門はマクロ経済からは遠いプライベート・エクイティである。そして高度なマクロ経済学の知識が必要とされる中央銀行のトップにそのパウエル氏が選ばれたのは、彼の能力が専門外の領域でも認められたからではなく、共和党の意図を組んで銀行への規制緩和を行う新議長をトランプ大統領が求めたという政治的な理由である。

そうした理由で議長に選ばれた現同僚のパウエル氏を、他の学者肌のメンバーらはどう見ているだろうか? 今回はエヴァンズ氏だけの反乱で済んだが、イエレン議長が任期を終了した後はFed内部が荒れるような気がしてならないのである。

市場の反応

最後に市場の反応に言及しておこう。会合前後のドル相場は概ねドル安で反応しているが、この動きの大半はFOMC会合によるものではなく、アラバマの上院補欠選挙で野党民主党の候補が勝利し、上院に民主党の席が増えることとなったため、トランプ政権の法人減税が暗礁に乗り上げるリスクを意識したことによる。ドル円のチャートは次のようになっている。

因みに勝利した民主党の議員は来年から職に付くことになるため、与党共和党は今年中に税制改革を議会に通そうと躍起になるだろう。

税制改革は元々今年中に通すことが目標とされているため、今回の選挙が法人減税に及ぼす影響はそれほど多くはない。また、個人的には法人減税がアメリカの経済成長を押し上げるとは考えていないため、万一税制改革が頓挫した場合の影響は為替や金利よりも米国株に多く出ると考えるべきだろう。米国株はいまだ市場最高値付近を推移している。