2015年にユーロ危機再発の兆候あり

ユーロの下げ方がちょっと尋常ではない。ECB(欧州中央銀行)がついに量的緩和を決定したことで材料出尽くしとなり、ユーロドルは1.12前後の水準をうろうろしていたが、2月の雇用統計がFed(連邦準備制度)の6月の利上げを支持する内容となったことでドル高が再び進行、ユーロドルはついに1.10の壁を下回り、放物線を描きながら下落している。

ユーロに関しては、これまで一貫して下がり過ぎを主張してきた。上記の記事の通り、マネタリーベースで見れば、ユーロドルの適正値は量的緩和を完全に織り込んだ状態で1.15程度であり、量的緩和が開始されたばかりの3月に1.10を下回るのは相当の下落速度である。米国の利上げについても、他の通貨に比べユーロだけ織り込みが早過ぎる。ここまで考えてようやく気付いたことがある。

ユーロは本当に先進国通貨か?

上記の記事で書いたように、有り得ないことが起こっているということは、前提が間違っているということである。その前提とは、ユーロ圏の量的緩和を米国や日本の量的緩和と同一視して考えていたことである。米国と日本の量的緩和は、デフォルトの心配のない先進国の中央銀行による財政ファイナンスである。しかしユーロはそうではない。

例は極端だが、ユーロはドルや円ではなく、むしろロシアルーブルやアルゼンチンペソなどと比べるべき通貨であると考えると分かりやすい。ドイツが中心となっていることで忘れがちだが、ユーロ圏の失業率は10%以上であり、スペインなどでは20%を超えている。周知のようにギリシャは事実上デフォルトしているようなものであり、そのほかの南欧諸国も、やや改善しているとはいえ米国や日本の状態とはあまりに程遠い。

債務危機の国による量的緩和

債務危機の国が量的緩和を行えばどうなるかを想像してみてほしい。例えば、ギリシャが独自通貨を使っていれば、量的緩和が不可能なのは目に見えている。デフォルト寸前の国は通貨と国債の買い支えという、一方が上がれば一方が下がるジレンマのなかで苦しむのが通常であり、ユーロというバスケットのなかに放り込んだからすべてが解決されたように考えるのは誤りなのである。

今まさにその通りの状況が起こっている。ユーロが押し目もなく急速に下落しているのは、単にマネタリーベースが増加したからではなく、国債に信頼のない国が量的緩和をしているからである。スペイン国債が米国債よりも低金利であるような異常な状況を創造して、何の代償も払わずに済むわけがない。それが通貨急落なのである。こうなれば、ユーロは何処まででも下がってゆくことが有り得る。

行き着く先はドイツのユーロ圏離脱

ここに来て初めてユーロ圏崩壊の現実的な可能性を考えた。ジョージ・ソロスなどは数年前からドイツのユーロ圏離脱を提言していたが、文化的な理由によりそれは有り得ないと個人的には考えていた。しかし、量的緩和が通貨危機を引き起こした場合は話が別である。

ドイツはたしかに辛抱強い。欧州を経済同盟ではなく文化的共同体と考えているドイツ人は、自国のメリットに合わないとしても共通通貨ユーロの維持に尽力するだろう。しかし、その忍耐が裏切られたときには、辛抱強さも限界を迎えるのである。

量的緩和はイタリアなど債務が多い国が切望し、ドイツが反対しながらも受け入れた金融政策である。ドイツ人は、他国の債務のために相当の犠牲を払ったと思っている。彼らは欧州の中央にいるため、債務を作った張本人であるイタリア人やギリシャ人が、経済的に余裕のあるドイツ人よりも働かずに呑気に暮らしているのを実際に目にしている。ドイツ人は今の状況を相当不合理だと考えているが、第二次世界大戦で欧州に迷惑をかけた記憶と、ユーロ圏で一番の経済大国である自負から、自分たちが欧州を先導しなければならないと思っている。しかし、そうして南欧諸国の要求を受け入れた結果が通貨危機となった場合には、量的緩和に反対した自分たちが正しかったのだと考え、ユーロ圏から離脱することを初めて真剣に考えるだろう。

ユーロの生存確率

このシナリオが実際のものになる確率についてははっきりとは分からない。しかし少なくとも、これまでの下落は単に投機筋だけによるものではなく、実際にユーロ圏の国民がユーロを売っていると考えるべきだろう。

ジョージ・ソロスは、日本が量的緩和を始めたとき、日本国民が円売りに動けば雪崩のように円安が止まらなくなる可能性があると主張したが、これも文化的な理由により有り得ないことであった。しかし、ヨーロッパ人であるソロスがこういう発想をしたように、ヨーロッパではこれは起こりうるのである。

そもそもユーロも最近出来た通貨であり、自国だけの通貨ではないのだから、ユーロが危なければポンドやスイスフラン、あるいは米ドルへと自分の資産を移し替えることは、ヨーロッパ人にはそれほど抵抗がない。これまではマネタリーベースと金利差という平時の観点からユーロを見ていた投資家が多いだろうが、これからは債務危機と通貨安のジレンマという異常時の観点に加え、他国通貨への資本逃避にも気を配りながら、これからのユーロを追っていかなければならないだろう。