株式市場の推移予想、反発している米国株は遠からず金利上昇によって脅される

トランプ政権の関税政策をきっかけとする株価急落のあと、トランプ政権が関税を延期したことによって米国株は反発している。株式市場の動向は今後どうなってゆくのか。

関税と株式市場

関税がこれほど目まぐるしく変わるというのは、輸入業者にとってはたまったものではないだろう。トランプ政権の関税政策は、米国株と米国債の同時下落のあと延期され、中国に対する145%の関税だけは残されたが、その後それも90日間限定だが30%に下げられた。

だが関税はそれでも残っている。結局何パーセントになるのかはいまだに分からないが、株式市場は関税など元々なかったかのような喜びようである。S&P 500のチャートは次のように推移している。

ほとんどの国に対する関税は確定ではなく、関税の税率はこれからも変わり続ける可能性が高いが、今の税率で議論を進めると、金融市場にそれほど影響を与えなかった前回のトランプ政権の関税政策に近づいたと言えるだろう。

関税と財政赤字

それで株式市場は喜んでいるわけだが、市場は根本的な問題を忘れている。多くの人は関税はトランプ大統領が考えなしに突然持ち出したもの、撤回して何の問題もないものと思っているから、当然そういう考えになるだろう。

だが関税は、トランプ政権が財政赤字縮小の手段として持ち出したものである。だから関税が撤回されることは、財政赤字の問題がふりだしに戻ることに等しい。

アメリカの財政赤字の問題とは、コロナ後の金利上昇で膨大な量の米国債に多額の利払いが生じていることである。

この利払いはアメリカのGDPの4%に届こうとしており、7%あるアメリカの財政赤字の半分は今や米国債の利払いなのである。

米国政府は米国債の利払いを米国債の発行で賄う自転車操業に陥っているわけだが、ベッセント財務長官は元々、株価を下落させてでも関税による増収でこの問題を解決しようと考えていた。

だが良くも悪くも関税は撤廃され、しかも最近発表された予算案では、政府の支出はある程度削減されてはいるが、財政赤字の解決には程遠い。

そこに更に関税まで撤回されてしまえば、財政赤字の問題はほぼ放置ということになる。米国債は大量に発行され、債券市場に流れ込み、米国債の価格を下落させることになる。

株高の裏で進む金利上昇

こうした状況に債券市場は確固たる反応を見せている。アメリカの長期金利は次のように推移している。

長期金利はトランプ政権に関税延期を強要した4月の金利急騰の水準に近づいている。

関税を延期する前も金利上昇、延期した後も金利上昇なのだから、米国債の金利上昇(価格下落)トレンドは根強いと言わざるを得ない。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、最終的には中央銀行が国債購入で金利を抑えなければならないと予想している。

金利が上がれば、株価にとっては当然マイナスとなる。

株式市場の推移予想

投資家はこの状況をどう考えるべきか。少なくとも、株高・金利上昇の組み合わせをこのまま続けることは出来ない。それは前回のトランプ政権では実現できたが、今回のトランプ政権では実現できない。金利が上昇すれば米国債の利払いの問題が更に悪化するからである。

このまま株価が上がり続けると思っている人は、少なくともその時に金利がどうなるのか説明する義務があるだろう。

だから投資家は金利と株価を並べて見なければならない。株価が何処まで上がることができるかは、金利が何処まで上がることができるかにかかっている。

現在の財政赤字と米国債利払いの規模を考えると、4%台後半はトランプ政権(特にベッセント財務長官)が金利高を気にし始める水準だと筆者は考えている。

4%台後半は危険水準であり、5%以上はアウトである。株価を気にしている投資家は、長期金利を見ながら株価の上がり過ぎの度合いを考えるべきだろう。

もう一度S&P 500のチャートを挙げておく。

以下は長期金利である。

結論

少なくとも言えることがある。ほとんどの暴落には、暴落前のリバウンドがある。逃げ遅れた人にも逃げる猶予を与えてくれるのである。

2000年のドットコムバブルでは、株価は半年以上かけてまた頂上まで上がり、そこから再び暴落していったのである。スタンレー・ドラッケンミラー氏が激動のトレードを以下の記事で語っている。

今の状況はこうだ。株式市場は強気派には押し目買いの機会を、弱気派にはもう一度逃げる機会を与えてくれた。この相場は今のところ、一貫性をもってトレードする投資家は損をすることのない相場になっている。振り落とされた人は、トレードの心理面を見直すべきだろう。

筆者の方針は去年から変わっていない。気に入っている個別株は、安ければ買い増す。米国株全体は極めて割高だと思っているので、個別株の買いはS&P 500の空売りでヘッジし、高ければ高いほどヘッジの空売りを増やす。

AI銘柄のLumentumは、以下の記事で62ドルの時に安いと書いておいたが、今や71ドルである。

米国株全体が長期金利で測った水準で見てこれから危険水域に入ってゆくにつれて、筆者はLumentumの追加購入分を徐々に利益確定(元々の保有分は継続)するか、S&P 500の空売りを増やすことによって米国市場全体のリスクをヘッジするだろう。

いずれにしても、米国株の長期的な動向は、短期的な動向よりもよほど予想しやすい。株価の水準にもよるが、筆者は個別株の買いとS&P 500の空売りによって、基本的には去年から米国株へのエクスポージャを差し引きゼロにしたままだが、低く買い高く売る一貫した戦略によって最近の乱高下ではむしろ儲かっている。一貫した上げはないと分かっている状況では、その戦略が有効なのである。