チューダー・ジョーンズ氏: 関税は大幅増税なので株価は再び下落して底値を更新する

1987年のブラックマンデーを予想したことで有名なポール・チューダー・ジョーンズ氏が、CNBCのインタビューで4月の株価急落とその後の株式市場の見通しについて語っている。相当弱気でなかなか面白い。

トランプ関税の本質

今回の株価下落はトランプ政権の関税政策をきっかけとして起こったが、世の中の議論のなかで忘れ去られていることが1つある。関税が税金であるということである。

世間ではまるで関税が輸入品の単なる物価上昇であるかのように扱われている。だが実際には物価上昇分は、米国政府が徴収する税金である。

この事実が良くも悪くも忘れ去られている原因の1つは、関税問題の本質が諸外国との争いではなくアメリカの財政赤字の問題であり、関税による税収はアメリカにプラスになるという事実を、トランプ政権に批判的なメディアが意図的に避けているからだが、少なくとも投資家は2つの理由でこのことを真剣に考える必要がある。

ここの読者には周知のことだが、アメリカではコロナ後金利上昇で米国債の利払い費用が急増しており、今や7%の財政赤字の半分は国債の利払いなのである。

関税が税金であることが重要である1つ目の理由は、それが財政赤字を補填するための、アメリカ国民にとって恐らく一番ダメージが少ない増税案であるということである。関税はいわば半分が外国企業の負担となる税金であるため、所得税や消費税など全額をアメリカ人が負担する税金よりもよほどマシであるはずだ。だがこの点は大手メディアでは決して議論されない。

そしてもう1つの理由は、それでも関税は税金であり、株価にとって重要な企業利益に影響するということである。

ジョーンズ氏は次のように語っている。

関税は税金だ。だから今回の関税は1960年代以来最大の増税だ。

関税をやると決め込んでいるトランプ氏がいて、利下げはやらないと決め込んでいるFed(連邦準備制度)がいる。

それは株価にとって良い組み合わせではない。株式市場は恐らく底値を更新するだろう。

関税と株式市場

ジョーンズ氏は株式市場がもう一度底値を更新すると言っている。米国株は今のところ次のように推移している。

ここからまた底値まで行くとすれば、結構な下落幅である。

関税は前トランプ政権でもあったが、異なるのは関税の税率である。しかし高関税なのは中国に対する145%の関税で、この数字がそのまま確定するかどうかには議論がある。

しかしジョーンズ氏は次のように続けている。

仮に中国の関税を50%に下げたとしてもだ。

トランプ氏はいずれ関税を50%には下げるだろう。だが現在の株価はそれを既に織り込んでいる。

それでも株価は下落するとジョーンズ氏は言う。

司会者に、「何か希望のある点はないのか」と聞かれ、ジョーンズ氏は次のように付け加えている。

貿易赤字を是正するということ自体は素晴らしいアイデアだ。関税も、トランプ氏のような使い方ではなく手術のように丁寧に扱えば、手術のように丁寧に扱えばだが、素晴らしくなり得る。

ジョーンズ氏は、関税そのものはむしろ評価できると言う。これは多くの人には意外ではないか。

Bridgewaterのレイ・ダリオ氏も、去年の大統領選挙前に次のように言っていた。

関税は昔は政府にとって大きな収入源だった。わたしの計算によれば、トランプ氏が関税を上げれば年間8,000億ドルの収入になる。

それは例えば、資産税など他に提案されている税制がおよそ1,250億ドルの収入にしかならないのと比べれば大きな金額だ。

当然だが、ダリオ氏もジョーンズ氏も、財政赤字の問題が危機的だということを前提に話している。そういう観点から見れば、関税は「最悪の中の最良」なのである。他の税金なら国民へのダメージはもっと酷くなる。だが財政赤字の問題が頭から抜けている大手メディアや多くの人々にはそういう観点はない。

結論

だが、それと株価がどうなるかという問題は別である。ジョーンズ氏は次のように予想している。

Fedは、相当緩和に傾くようなことがなければ、大幅に利下げしなければ、株価は底値を更新するだろう。

そして株価が底値を更新した後に、Fedは動かざるを得なくなる。その後に株価はようやく反発するだろう。

株価が下落するとしても関税をやらなければならないとすれば、アメリカの財政問題はそれほど差し迫っているということである。結局、何かを犠牲にしなければ、財政赤字の問題は解決できないのだろう。

それは、株安の途中で米国債の急落が始まったことで証明されている。少しでも財政にリスクのあることをやろうとすれば、債券市場がトランプ政権に反逆するだろう。

上記のダリオ氏は、著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、アメリカは衰退して覇権国家ではなくなるということを予想している。

まさかアメリカが覇権国家ではなくなるとは思えないと思った人が大半だろう。そこで良いニュースがある。政府債務はこのようにして増税と株式市場の下落を呼び、大国を衰退させてゆくのである。とても勉強になる瞬間を、われわれは目撃している。


世界秩序の変化に対処するための原則