引き続き、Berkshire Hathawayの株主総会からウォーレン・バフェット氏の発言を紹介したい。
今回はバフェット氏が4月の株価下落の感想を述べている箇所を紹介したい。
2025年4月の株価下落
2025年4月、トランプ政権の関税政策をきっかけとして株危機市場が急落した。アメリカの株価指数であるS&P 500のチャートは次のように推移している。

天井からの下げ幅は20%ほどとなり、米国市場にとっては久々の下落幅となった。
しかしバフェット氏は次のように言っている。
ここ30日、45日、100日、何日でもいいが、最近起こったことは本当に何でもないことだ。
われわれがBerkshireを買収してから、Berkshireの株価が短期間で半分に下落したことが3度ある。どのケースも会社自体に何か問題があったのではなかった。
だが今回の動きは大きな動きではない。
筆者も感じていたのは、あの下落で多くの個人投資家が大騒ぎし過ぎていたことだ。毎度のことではあるのだが、株式市場では20%程度の下落は数年に1度あるものである。
そしてその度に、恐らくはその数年の内に参入してきた新たな投資家が、まるで株式市場が下落するとは知らなかったと言わんばかりに大騒ぎする。毎度の風物詩である。
1929年世界恐慌
バフェット氏は、例え話に次のような話をしている。
1929年の9月にダウ平均は381ドルだったが、その後42ドルになった。つまり株価が11%になった。
今回の動きは劇的な株価暴落でも何でもないし、それに近いものですらない。
株価が11%下落した話ではない。株価が11%になった話である。
1929年とは勿論世界恐慌の話であり、この時の株価暴落から米国株は25年立ち直ることがなかった。

バフェット氏の言いたいのは、20%ほどの株価下落など日常茶飯事であり、もっと深刻な下落などいくらでも起きるということだろう。だからトランプ政権の関税を止めたのも、株価の下落ではなく米国債の下落だった。
筆者の感覚では、40〜50%を上回る下落になったとき、大きな下落だと感じる。それは10年に1度起きるかどうかの大幅下落である。だがそれもたまにあることだ。
株価と米国債の同時下落
だが、注意しておかなければならないのは、1929年の世界恐慌がただの例え話とは言い切れない状況になっていることである。
今回の株価下落と1929年から始まる長期の下落相場には、共通点がある。株価と米国債が同時に下落したことである。
そしてそちらの方はありふれたことではない。それは50年に1度の大事件である。過去100年ほどでそれが起きた時期こそが、1970年代の物価高騰時代と、世界恐慌後の下落相場である。
それらはともに、アメリカの財政問題で米国債の信用が落ちた時期である。そして今、アメリカはコロナ後の金利上昇により米国債の利払いが急増しており、米国政府は国債の利払いを新規の国債発行で賄う自転車操業に陥っている。
それが過去には米国株の長期下落に繋がった。
だからバフェット氏はアメリカの財政問題とドル下落の可能性を気にしているのである。
結論
こうした視点で見ている投資家にとっては、20%の株価下落そのものは本当に何でもないニュースである。それは投資家にとって日常である。
バフェット氏は次のように述べている。
人々は株価が大きく動いたと思っているが、動いていない。
もし相場に最近入ってきた人で知らない人にはこっそり教えておくが、実は株価は下落するのである。
誰も知らなかった大ニュースではないか。それを知っている人々は、今の株式市場では少数派になってしまったのかもしれない。「波が引いた時に始めて、誰が裸で泳いでいたかが分かる」という有名な格言もバフェット氏の言葉である。
そもそも、株価が15%上がった時には誰も騒がなかったではないか。何故同じ変動幅で大騒ぎするのか。バフェット氏は次のように指摘している。
株価が15%下がった代わりに15%上がったとしたら、人々は心穏やかに過ごしていただろう。逆に15%下がった時に別の反応をしなければならないようなら、投資の姿勢を少し改めた方がいい。
世界はあなたに合わせてはくれない。あなたが世界に合わせなければならない。
現在の相場の問題は、株価が20%下落したことではなく、50年に1度しか起こらなかった米国株と米国債の同時下落が起こったことである。
過去にそれが起こった世界恐慌後の下落相場と1970年代の物価高騰時代には、米国株は長期的な下落相場に陥っている。
今回はそれに加え、バフェット氏も懸念している基軸通貨ドルの信用崩壊という問題もある。
ドルが次第に基軸通貨の地位を失ってゆくという予想は、レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想していることである。
この本は今後数十年の金融市場を予想するために必読の本である。未読の人は読んでおくことをお薦めしたい。

世界秩序の変化に対処するための原則