世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログでドナルド・トランプ大統領とFed(連邦準備制度)のジェローム・パウエル議長、そしてアメリカの金融政策について語っている。
トランプ大統領 vs パウエル議長
ダリオ氏のブログは次の文から始まる。
ドナルド・トランプ氏とジェローム・パウエル氏の議論は通貨の価値に関するものだ。
トランプ大統領とパウエル議長の議論とは、前回の記事で報じたものである。
トランプ大統領は、アメリカのインフレ率が2%台まで下がっているにもかかわらず、パウエル議長が政策金利を4.25%に維持していることが不満であり、前回の記事で次のように言っていた。
パウエル議長は酷い仕事をやっている。金利は今より3%低い水準であるべきだ。パウエル議長のせいでアメリカは多額の費用を支払っている。
多額の費用とは、米国債の利払いが金利上昇で増加していることを指している。パウエル氏が利下げすれば、金利が下がり利払い費用が減るというわけである。
トランプ氏は利下げを望んでおり、パウエル氏はそれに抗っている。
ダリオ氏はどちらが正しいと考えているのか。
金利を下げたいトランプ大統領
ダリオ氏は次のように書いている。
政府に大量の借金があるとき、それに対処する古典的な方法は、実質金利を下げ、通貨の価値を減らすことだ。
ドナルド・トランプ氏はそれを望んでおり、ジェローム・パウエル氏はそれに抗っている。
トランプ氏が金利を下げたい理由は明らかだ。トランプ氏は、上の発言からも分かる通り、金利上昇で米国債の利払いが急増していることを懸念してのことである。
米国債の利払いは、金利上昇でアメリカの財政赤字の半分にまで達している。政治家はその分だけ財政支出が出来なくなるから、これまで借金など一切気にしていなかった政治家でさえも、政府債務を気にするようになるのである。
金利を下げればどうなるか
確かに金利を下げれば米国債の利払いは減るだろう。しかし何の対価もなしにそれが可能かと言えば、そうではない。
国債の金利を抑え込むために金融緩和をやった国がある。アベノミクス後の日本である。その国で起こったことは何か? 通貨安によるインフレである。
だからトランプ氏はいわば、ドルを犠牲にして米国債を救おうとしているのである。
そういうトランプ氏にダリオ氏は理解を示すような発言をしている。ダリオ氏は次のように言っている。
この2人の議論は普通より激しいだけで、この種の議論自体は普通のことだ。政府のトップは金融市場や商品やサービスにお金が流れ、人々が幸せになれるように、金融緩和を望む。
だがダリオ氏の発言は次のように続く。
そしてそれはインフレが厳しくなって彼ら自身でさえも引き締めが必要だと認める状況になるまで続く。
結論
結局、そういうことである。トランプ大統領が金融緩和を望むのは構わないが、それはもうこれまで散々試したではないか。緩和をする度に副作用が酷くなり、コロナ後の物価高騰は乗り越えたかもしれないが、次の副作用は恐らくそれより更に酷いものになるだろう。
そもそも4月には米国株とドルと米国債がすべて一気に下落しかけているのである。それもまた悪化している副作用の1つである。
そして政治家と国民は緩和しては止め、緩和しては止めのサイクルを何度でも繰り返し、最終的にはアルゼンチンのようになってゆく。
一部の人は日本やアメリカはアルゼンチンのようにはならないと主張するが、アルゼンチンも最初は日本より1人当たりGDPが高い先進国だったのが、緩和政策をこのように続けた結果そうなったのである。
これこそが、ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で説明した国家の繁栄と衰退のサイクルである。それはいつも通貨安とインフレで終わる。
だからドルからゴールドとシルバーに資金が逃げているのである。
トランプ大統領はそれを理解していないようだ。だがこのサイクルは長期である。投資家は次の一手が何かを考えなければならない。
そして次にアメリカが経験するのは、アメリカ版アベノミクスである。