アメリカの財務長官で、ジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementを運用していたヘッジファンドマネージャーでもあるスコット・ベッセント氏が、BloombergのインタビューでFed(連邦準備精度)の利下げについて語っている。
雇用統計と利下げ予想
いまやトランプ政権の声を代表していると言えるベッセント財務長官だが、ベッセント氏が言及しているのは、まず今月の雇用統計で過去のデータの大幅な下方修正が行われ、市場を驚かせた件である。
この下方修正で市場の利下げ予想が一気に高まった。元々利下げを望んでいたトランプ大統領は、何故この数字を隠していたのかと労働統計局長を解任した。
ベッセント財務長官はこの件について次のように語っている。
まず何より、労働統計局が発表した統計が元から質の高いもので、これらの数字が5月や6月に既に出ていたら、6月や7月には利下げが出来ていたかもしれない。
それはつまり、9月に0.5%の利下げができる可能性が高いということだ。
ベッセント氏は、本来出来ていたはずの利下げを次のFOMC会合で取り戻せとFedに要求しているのである。
ちなみに金利先物市場の予想では、9月のFOMC会合における利下げ確率は次のように織り込まれている。
- 0.25%利下げ: 95.8%
- 0.5%利下げ: 4.2%
市場はベッセント氏の要求が通るとはまだ考えていないようだが、利下げそのものは既定路線だということになっている。
パウエル議長の判断
また、ベッセント氏はパウエル議長の判断も槍玉に挙げている。パウエル氏は雇用統計の直前に開かれたFOMC会合で利上げについて口にして市場を驚かせたが、その直後の雇用統計で利上げの可能性など跡形もなく吹き飛んでしまった。
債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は次のようにコメントしていた。
パウエル氏は会合後の記者会見でかなりタカ派だったと感じた。
パウエル氏は質問への回答で、インフレデータを検証中だがそうでなければ利上げしていたかもしれないと言った。
質問は利下げに関してばかりで、利上げに関する質問などなかったのにだ。
トランプ政権としては、勿論言いたいことがあるだろう。ベッセント氏は次のように言っている。
トランプ大統領は人にあだ名を付けるのが上手い。何故パウエル議長が「ミスター遅すぎ」と呼ばれているかと言えば、彼はむしろ利上げを望んでいるからだ。
パウエル氏は、もっと先回りしてものを考えていたアラン・グリーンスパン元議長とは違う。パウエル氏はデータを見てから動こうとするが、それは間違いだ。
アメリカ経済はこれから1990年代のような状態になってゆくだろうからだ。だからパウエル氏の思考は時代遅れだ。
1990年代とは、クリントン政権の時代である。クリントン政権はここ数十年で唯一財政赤字の大幅な削減に成功しながら経済成長を維持した政権であり、ベッセント氏はトランプ政権が財政赤字を削減して同じことをやると主張している。
果たしてトランプ政権は赤字削減を達成できるのか。Bridgewaterのレイ・ダリオ氏は、トランプ政権が赤字削減を達成できる可能性は5%だと予想している。
クリントン政権か安倍政権か
ベッセント氏はFedに大幅な利下げを要求している。ベッセント氏は次のように述べている。
Fedはこれから9月に0.5%の利下げを行ない、利下げサイクルに入るだろう。
どんなモデルを用いて考えても、政策金利は1.5%か1.75%は低くあるべきだ。
果たしてトランプ政権の経済政策はどうなるだろうか。赤字削減が達成できずに金融緩和だけ行なう場合、その結果はアベノミクスということになる。
だからダリオ氏はドルの大幅な下落を予想している。
しかも更に悪いことに、仮にクリントン政権と同じようになったとしても、クリントン政権の最後が金融緩和のやり過ぎによるドットコムバブルの崩壊で終わったことは指摘しておかなければならない。
トランプ政権はこれらのシナリオにかなり近づいている。ダリオ氏は最近発表された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)において、アメリカの行く先は結局大幅なドル安だと予想している。
日本語版は出ていないが、英語が読める人は読んでおくべきだろう。おおよそダリオ氏の想定するシナリオになるだろうからである。

How Countries Go Broke